欧州の「新型車両」はいったい何がスゴイのか コンセントは必需品、低床化がトレンドに

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ブラチスラヴァ市向け低床トラム車内。運転室直後の台車は、車軸のある動力台車を搭載しており、車内も段差がある。中間部分は全て低床化されており、乗降に不自由はない

さて、その車両低床化に関して、少々面白いことに気が付いた。かつてトラム(路面電車)で低床車両が普及し始めた当時、車両全体の低床化を実現した「100%低床車両」は、一つのステイタスのようなものであった。左右の車輪は一般的には車軸によって結ばれているが、これが低床化の妨げになっていたため、メーカー各社が車軸を無くすことのできる技術を開発したことで、100%低床化を実現したのだ。今では低床車両と言えば100%低床車両のことを指すと言っても良いほど、ごく標準的な技術となっている。

ところが、今回出展されていた各メーカーの車両を見ると、必ずしもすべての車両が100%低床車両ではない。一部は車軸のある台車を用いて60~70%を低床化する部分低床式を採用しているのだ。これはどういうことだろうか。

フルフラット化はコストがかかる

100%低床化すると車内の床はフラットで移動はスムーズになる。しかし、果たしてどれだけの乗客が、車内を移動するのだろうか。日本のように運転士や車掌が運賃収受する場合は、前後へ移動せざるを得ないため、100%低床化する意味もある。

だが、欧米のような信用乗車方式(乗客は自分でチケットを購入し乗車、ただし不正乗車をした場合は高額罰金を科せられる)の場合は、どのドアからでも乗降できるため、わざわざ車内を移動する必要はない。車軸のない車両の構造は複雑で導入コストも掛かり、メンテナンスにも余計な時間や労力を要する。

今回、出展されていたトラム車両のうち、部分低床式車両だったのはシュコダ製のブラチスラヴァ市向けと、ペサ製のクラクフ市向け。いずれも多くの旧型車両が活躍する中欧の都市だ。シュコダはプラハ市向けに、ペサはワルシャワ市向けに100%低床車両を製造しており、両メーカーが技術的に遅れているわけではない。

中欧諸国は経済的に大きく成長を遂げているとはいえ、一部の大都市を除けばまだ財政的に厳しい地域も多い。そうした都市の事情を考えると、あえてコストを抑えた部分低床式を導入し、手っ取り早く低床化を実現するという理由も納得できる。

2010年にクラクフへ導入された新型車も、すでに多くの100%低床車両を製造した実績があるボンバルディア製であったにも関わらず、65%部分低床仕様だった。同市のトラムが部分低床車を意図的に採用していることがわかる。

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