ワタミ「脱ブラック宣言」の知られざる裏側 やっとできた労組、そのトップの意外な経歴

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亀本氏はワタミ本体の正社員。入社年や年齢は不明だが、これまでに経営企画本部の課長や販促企画部の部長を務めている。経営中枢寄りで働き、役職も得た事実を踏まえれば、出世街道を歩んできたといえるだろう。亀本氏のもう一つの顔が、渡邉氏の熱心な支持者だ。

渡邉氏の参議院選挙出馬を目前にした2013年6月下旬、経営企画本部に配属されていた亀本氏は多くの社員にこんなメールを送っている。「事務所から連絡いただき、『住所』『電話』『メール』いずれかでOKになりました! サポーター募集の申し込み期限はあと5日間です!7月3日までに入会していただくことにより、大きな価値が生まれます」

 

選挙事務所に出入りし、事務所で当選を祝った

選挙活動をボランティアで支える後援会サポーターを募る内容で、文中にある期日は選挙公示日前日に当たる。また、このメールには主要従業員ごとのサポーター獲得状況が添付されており、獲得数が少ない従業員を叱咤する狙いもあるとみられる。ワタミ関係者によると、亀本氏はこのメール以外にも支援活動の一環として渡邉氏の選挙事務所に出入りし、投開票日にも渡邉氏とともに事務所で当選を祝ったという。

関係者は亀本氏の活動はあくまで自発的なものであり、会社側の支援の強要はなかったとしている。公職選挙法などの法令違反も確認されていない。ただ参院選当時は、渡邉氏の経営者の資質が社会から厳しく問われる局面にあった。

過労自殺した森さんへの労災認定は立候補前年に下されたが、遺族は渡邉氏が事件について十分な説明と謝罪をしないまま国政を志すことに強い不快感を示し、自民党に対して渡邉氏への公認を撤回するよう文書で要請した。一般有権者からの批判も寄せられ、党内では公認をめぐって議論があったという。「若者を死ぬまで働かせ利益を上げた経営者に、国会議員になる資格があるのか」という遺族の疑問はもっともだと、世論が共感したのだ。

一連の経緯を知るワタミ関係者によると、そんな世論が巻き起こった中でも、「亀本氏は『多くの社員が渡邉氏のファンであり、彼を応援したいと思っている』と信じ、みずから選挙活動を支援した」。その人物が労組委員長に就任したのだ。労働者側の代表となった今、これまで心酔してきた渡邉氏の「365日24時間、死ぬまで働け」といった考え方を根本から否定できるのか。本誌は亀本氏に考えを聞こうと取材を申し込んだが、ワタミ労組の上部団体であるUAゼンセンから「取材は受けられない。そっとしておいてほしい」(UAゼンセン広報担当者)と拒否された。

森さんの裁判で遺族代理人を務めた玉木一成弁護士は、労組はあるほうがよいとしながらも「過重労働をさせる企業だという批判を封じ込めるために設立を容認したのだろうが、(委員長の人選からは)経営側の言うことを聞かない組合では困るという本音もうかがえる」とみている。

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