「合理的な説明」に窮する日米の中央銀行 米国は「利上げ見送り」で禍根を残す懸念

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10月31日には9月の米国個人消費支出コアデフレーター(PCEコアデフレーター)が発表された。前年同月比1.7%の上昇と、FRBが目標とするインフレ率2%には届かなかったものの、ほぼ目標に近づきつつある。

FRBが負っている責務「物価の安定」は、基本的にはフロー面でのインフレを念頭に置いている。しかし、「(超過)準備預金の正常化」を迫られているFRBが「Behind the curve」を警戒しているのは、バブルを生みかねないストック面でのインフレ(資産価格上昇)を懸念しているからである。

今後PCEデフレーターが上昇し、フロー面での物価の上昇が確認されることになれば、「住宅価格」、「石油・ガス油井を含む非居住構造物への投資」というストック面でインフレの気配が感じられる中、FRBはどのように対応するのか説明を求められることになる。

大統領選挙やFOMC後の4日に雇用統計が発表されるなど、日程的には利上げは考え難い。だが、資産価格上昇の気配が見られる中で利上げを1カ月先送りするというのはFRBにとって大きな賭けだともいえる。

大きな困難に直面する日銀

金融政策の説明という面でより大きな困難に当たっているのは日銀である。

11月1日の金融政策決定会合で、2016年度の物価見通しを0.1%からマイナス0.1%に引き下げ、目標とする上昇率2%の達成時期も「2017年度中」から「2018年度ごろ」に先送りした。見通しを下方修正しながら追加緩和を見送るという言行不一致の説明は難しい。

消費者物価指数コア(コアCPI)は7カ月連続ですでにマイナスを記録しているが、日銀が見ている9月の日銀版CPIは8月の同0.4%上昇から低下したものの未だに前年同月比0.2%上昇とプラスを保っている。

日銀版CPIが前年同月比0.4%上昇という段階で、9月に追加緩和に踏み切ったことは、すでに物価見通しを下方修正していたことに他ならない。

「日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。・・・中略・・・イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」

2013年4月に「異次元の金融緩和」に踏み込んで以降、黒田日銀はずっと「イールドカーブ全体の金利低下を促す」ことを金融調節の手段として掲げてきた。

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