ナイキのゴルフ用具撤退で始まる選手争奪戦 台風の目、タイガー・ウッズはどう動くか

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だが、ドライバーはマキロイがOKを出せるレベルのバックアップ(予備)が1本もないそうで、それならば、まずはナイキ以外のドライバーを試そうということになったようだ。

マキロイは「いろんな努力をしてくれたナイキの人々には悪いような気がするけど……」と前置きした上で、ナイキのゴルフ用具撤退を前向きに捉えていると語った。

「いろんなものを見つける自由をもらったようなものだ。100%自分に合うものを見つけたい」

ナイキの契約選手と言えば、ウッズにマキロイ、ブルックス・ケプカやトニー・フィノウなどがいる。女子ではミッシェル・ウィもナイキのスタッフプレーヤー。これだけ“看板選手”が揃っていながら、それでもナイキが用具市場からの撤退を決めた背景には、当然ながら様々な事情と思惑があるはずだ。

ウッズはゴルフ用具でも「王国」を築くのか

だが、誰の目にも明らかなのは、もはや契約選手の名前だけでクラブやボールが飛ぶように売れる時代ではなくなっているということ。一昔、二昔前なら「誰々が使っているクラブ」「誰々が何々を制したクラブ」というだけで売れる傾向が強かったが、コンシューマーが豊富になった情報を駆使して賢く選んで買う現代は、契約選手のネームバリューだけでは購買意欲をそそることはあっても実際の消費にまではつなげ切れないようだ。

そんな時代の変化に加え、ナイキが用具市場からの撤退を決めたことについて「なるほど。そういうことだったんだ」と米ゴルフ界を頷かせたのは、テーラーメイドの看板選手であるジェイソン・デイの新たな動きだ。

世界ナンバー1のデイは背中痛で米ツアーの昨季終盤はプレーオフ4試合のうちBMW選手権とツアー選手権の2試合を棄権。彼の肉体は大丈夫なのだろうかと人々が心配していた真っ只中の9月のある日、「デイがナイキと契約した」と米メディアにすっぱ抜かれ、ゴルフ界は騒然となった。

デイ側からの公式発表を待たずして報じられた驚きのニュースによれば、デイは今後もテーラーメイドのクラブを使い続けるが、ウエア、キャップ、シューズ、グローブといったアパレル関連はナイキと新契約を結び、2017年1月からは(ナイキのロゴである)スウッシュマークを付けた新たな装いで登場することになるそうで、契約年数は不明ながら「1億ドル(約100億円)を超える大型契約」と米メディアは推定している。

折しもアディダスが「今こそフットウエアとアパレルに注力すべき」と言って、テーラーメイドを売りに出すと発表したのは今年5月のこと。

その3か月後の8月にナイキが用具撤退を発表し、その翌月にナイキとデイがアパレルとシューズの大型契約を結んだわけで、この動き、用具と言うよりお金そのものが動き回るマネーゲームのようにも感じられる。

今週、上海でテーラーメイドのドライバーと3番ウッド、5番ウッドを握るマキロイは「これはパーマネント(永続的)ではない」と暫定的で実験的な使用であることも付け加えているが、たとえ一時的にせよ、現在の世界ランク1位のデイ、2位のダスティン・ジョンソン、3位のマキロイのトップ3が3人ともテーラーメイドのドライバーをバッグに入れたことは事実。

しかし、そのテーラーメイドは身売り中であり、そのテーラーメイドをアディダスから買収するかもしれないと噂されているのが、長期戦線離脱中のウッズなのだ。

ウッズは先週17日に自身の新しいベンチャービジネスと、それに伴う新ブランド「TGR」の立ち上げを発表したばかりだ。もしも米ゴルフ界に広まっている噂が現実化してテーラーメイドにTGRが冠され、そのクラブを世界のトップ3が使用することになれば、山の頂きには常にウッズの笑顔が見え隠れすることになる。

これを複雑な動きが活発化している米ゴルフビジネス界の戦国時代と呼ぶべきか、それともウッズ王国への過渡期と見るべきか。

こうしている今も、米ゴルフビジネスはどこかで秘かに新たな動きが起こっている。

舩越 園子 在米ゴルフジャーナリスト

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ふなこし そのこ / Sonoko Funakoshi

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。
 

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