アメリカの伝統的「エリート・コース」
それでは、アメリカの学歴社会はどのような構造になっているのか、説明してみたい。アメリカの大学といえば、一般の日本人がまず思い浮かべるのがハーバード大学であり、ハーバードを筆頭とするアイビー・リーグの名門大学だ。ここがアメリカの高等教育ピラミッドの頂点であるのは間違いない。しかし、歴史的に見ると、アイビー各校は留学生など受け入れていなかったのである。まして、私たちのような東洋に住むイエローは論外だった。
なぜなら、アイビー各校はいわゆるWASP(ワスプ:ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)の師弟の高等教育機関として作られたからだ。したがって、いくら成績がよくてもWASP以外は入学を拒否された。第2次大戦以前は、アメリカ人でも、ユダヤ系はもとよりカトリック系の後発移民のイタリア系、スペイン系、ポルトガル系、それにポーランドなどの東欧系、ケネディ家を出したアイリッシュ系などの子供たちはほとんど入れなかった。
しかも、アイビーリーグに入るためには、いわゆるプレップスクールの卒業生でなければならなかった。これらの学校はみな私立の全寮制学校であり、ニューイングランド各地に点在している。つまり、プレップからアイビーへの進学が、アメリカの旧世代の「エリートコース」だった。
アメリカを代表する名門プレップとして有名なのが、ヴァンダービルド家、モーガン家、メロン家などの師弟が通ったセント・ポールズ、フランクリン・ルーズベルトが卒業したグロトン、ブッシュ親子が卒業したフィリプス・アンドーヴァ、それにエクセターやチョート・ローズマリーなどだ。ケネディ大統領は1930年のチョート(当時はローズマリーと合併していない)の卒業生だが、ようやくこの頃から、プレップもアイビーもWASP以外の子供を受け入れるようになった。
つまり、この頃までのアメリカは、現在のような実力による学歴社会ではなく、人種、家柄による階級社会と学歴社会が並立していた。この伝統は今でも残っていて、東部の名門一流大学に留学するなら、こうした伝統の中に放り込まれることを意識すべきだ。
私の娘もその友人たちも、当たり前だが、このようなWASPの子弟のインナーサークルからは相手にされなかった。同じ学生として友人にはなれるが、それ以上の関係は難しい。現在は多少は違っているだろうが、この壁が厳然と存在することを意識するのとしないのでは、留学生活は大きく変わってくると思う。
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