格差を是正できる「必要の政治」とは何なのか この日本から「理不尽」を無くすことは可能だ

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今だったら所得制限というのがあり、貧しい人だけが医療扶助で医療が受けられる、貧しい人だけが無料で大学に行ける。こうすると、誰か一部の人だけが得するようにみえるから多くの人が不寛容になるのです。「本当にお前は貧しいのか」「自己責任ではないか」と疑い、攻撃をしてしまう。

大学は誰でも無料、幼稚園・保育園だって無料、それに近づけていけば、貧しい人ではなくても得をするし、幸せになれる。これが重要なことです。

木本:なるほど。全員が得するっていうことですよね。

井手英策(いで えいさく)/1972年福岡県生まれ。2000年に東京大学大学院経済研究科博士課程を単位取得退学し、日本銀行金融研究所に勤務。その後、横浜国立大学などを経て、慶應義塾大学経済学部教授に。専門は財政社会学、財政金融史。著書の『経済の時代の終焉』(岩波書店)で2015年大佛次郎論壇賞受賞。最新刊『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)は、自民党、民進党を問わず永田町の政治家の必読書として話題をさらっている

井手:自分のために貯金をするのではなくて、みんなのために痛みを分かち合って、みんなで社会に貯金をする(=税金を払う)。こういう発想を持てれば、将来への不安は少なくなる。確かに負担は増えるけど、貯金が税金に回っているだけですから、生活の負担は変わらないはずですよね。

税金を取られたというけれど、もし取られなかったら大学の授業料を何十万円、何百万円と払わなければならないですし、介護や医療の自己負担を払わなければいけない。そのときにかかる費用を全員で分かち合えば、いまは使わない人も税を払うから、じつは各自の負担は軽くなる。もちろん、いまは介護を使わなくても将来はそれを使うわけで。だったらみんなで出し合ってみんなで順繰りに使う仕組みを整えたほうがいい。

みんなが得をする。だったら、もっと税金を増やしてみんなで払おうよという世界を広げていければ、と思うんです。お金持ちも貧しい人もちゃんと払おうよ、と。みんながもらえる、みんなが負担する社会になれば、自分の幸せと他人の幸せが近づいていくのではないかと思うんです。

面白い例があって、軽減税率はご存知ですか?

野菜の軽減税率に国民の7割が賛成したのはなぜか

木本:はい。生活必需品である野菜なんかについては消費税を軽減するという政策のことですよね。

井手:低所得層対策で野菜を安くするという話がある。野党は「だめだ、低所得者対策になっていない。野菜は金持ちも買うんだから、金持ちも得するじゃないか」と主張する。でもアンケートを取ると国民の7割が賛成している。なぜ賛成するかといえば、みんなの利益になっているから。野菜が安くなるのはみんなの利益です。野党は効果がないといいますが、完全に間違っています。低所得者層対策になっていたら、みんなもらえないから反対してますよ。

木本:なるほど、そういう理屈になりますね。低所得層対策という言葉にとらわれているだけの印象です。

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