くら寿司、天然魚ネタ投入は何がスゴいのか 新たに稼働した加工工場で狙う大勝負

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ご当地フェアは顧客の評判は良かったものの、魚の品質を維持しながら安定供給することができずに失速した。国産天然魚の一般的な流通の仕組みでは、魚市場でセリにかけられる時間のタイムロスがあり、水揚げ後にいったん冷蔵庫に入れられる、または移送中のトラックの中で冷蔵される状態になる。

その後に工場で加工するのだが、魚種や個体によって加工処理の方法が異なるため、既存の工場では細かい対応に手間取った。そもそも、毎日取れる魚の種類や量も予測できない。

狙いは天然魚による差別化

会見する田中邦彦社長、今後も天然魚の取り扱いを増やしていく方針だと語る(記者撮影)

これらの結果、産地直送を訴求したフェアにもかかわらず、店頭にすしネタとして並ぶころには商品の鮮度を保つことができずない上に、十分な量を供給することもできずに終わった。

フェア失敗を教訓に、くら寿司は2011年ごろから福井県や高知県、三重県などの各産地で漁船などから天然魚を直接買い入れる方法を採用した。

商社経由だと冷凍されることが多くなり、またセリを経由して調達する方法でもタイムロスが生じるが、直接買い入れる方式ならば鮮魚のまま迅速に工場へ運ぶことができる。加えて、港から工場まで輸送する専用車両を用意、輸送ルートも独自設計し輸送時間を短縮した。

さらに、2015年には福井県で定置網魚を行う漁港と、網にかかった魚を丸ごと買い取る「一船買い」契約に踏み切った。年間250トン以上の魚を買い取る契約で、「この規模での一船買いは、業界では当社が初めてだろう」と、くらコーポレーション購買本部の尾越健二シニアマネージャーは言う。この大型契約により供給量の安定化を図る算段だ。

流通の改革だけなく、貝塚市に竣工した新工場の稼働も重要な意味を持つ。なにせ天然魚専用、つまり天然魚プロジェクトのために、わざわざ建てた工場なのだ。新工場には大量かつ多種多様な魚に対応できる幅広い処理スペースを確保。どんな魚種にも個別対応できるように教育された120人の専門スタッフが作業にあたる。

流通改革と専用工場を稼働させる執念とも言える大胆な施策により、水揚げから24時間以内に加工できる効率的な仕組みをくら寿司は構築した。

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