アデランスを追い詰めたかつら市場の"激変" MBOによる上場廃止の裏に「女心の変化」

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これまでもアデランスは他社製品のメンテナンスを引き受けたり、女性人気が高い美容品と共同で展示会を開いたり、GMS向けに値ごろ感のある既製品を販売するなどして他社から顧客を「取り戻す」施策を打ってきた。格安品が市場に出回り始めた当初は、「数年で顧客は戻ってくる」と見ていたが、足元では「成果が出るのには3~4年かかる」(アデランス)としている。

こうした中、再建のカギを握るのはマーケティング施策の抜本的な見直しだ。前述の通り、同社は従来、オーダーメイド品ではテレビCMを通じて新規顧客を獲得する戦略をとってきたが、今後は、テレビCMは維持しつつも、ネット経由の誘客方法を強化するほか、アフターケア拠点や人員も増やしていく方針だ。また、低価格やこれまで女性向けでは手掛けていなかった増毛商品も始める。

現在、同社を利用するのは60~70代の女性だが、今後は毛髪関連商品のバラエティを拡充することで、髪に悩みを抱え始める40~50代も取り込みたいとしている。具体的な改善や改革内容については今後詰める予定だが、こうした面でインテグラルのノウハウや経験を活用していく。

 テレビCMは簡単にやめられない

ただこれらの施策は、短期的には利益水準やキャッシュ・フローの悪化をもたらすリスクがある。同社は、「上場を維持したままでは、株価に悪影響を及ぼす等、不利益を株主に与える可能性がある」として、MBOを決断したとしている。

たしかにマーケティングのテコ入れは容易ではないだろう。同社とアートネイチャーは、女性用に関してはテレビCMと展示会という2本柱で新規顧客を集めてきており、CM効果が薄そうだからといって止めようものなら、ライバルにその枠を取られ、シェアを奪われる懸念が出てくる。展示会については両社とも抑制傾向にあるが、大幅に減らせば今度は「ユキ」などに付け入られかねない。

つまり、コストがかかるCMや展示会を維持しつつも、ネットなどで新たな誘引策を探ることになるわけだが、ネットの場合は電話と違って直接会話ができないため、実際に予約してもらうのは簡単ではないようだ。

こうした中、いちばん手っ取り早いのは育毛や増毛に加えて、格安品の投入だろう。ただこれまで質の高い高級品を作ってきただけに、「どの程度の水準の格安品を投入すべきか」はこれから頭の痛い問題になりそうだ。この辺りについては、インテグラルのアドバイスがモノを言うことになるのだろうが、闇雲に格安品を投入するだけではブランド毀損につながりかねない。大胆な改革を進めながらも、ブランドを維持できるのか。経営陣の前に立ちはだかるハードルは高い。

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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