「WOWOWドラマ」は地上波放送と何が違うのか 他の民放ではありえない作品を次々と映像化

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熟慮の末に浮かび上がったのが、「群像劇」の方式を取り入れること。主役に偏らず、複数の登場人物の人間模様を描く手法で、海外ドラマでも取り入れられている。「とにかくユーザーが喜ぶものを作ろうと思っていた。誰の意見も聞かなかった(笑)」と青木プロデューサー。ユーザーの特性や好みを丁寧に検証しながら、テーマ設定や制作は進んでいった。

第1弾として登場したのがオリジナル作品の「パンドラ」(全8話)。がんの特効薬を発見した主人公の苦悩を描く医療サスペンスだ。大々的に宣伝も打ったことで、ユーザーの認知は高まり、利用率は上々だった。ついに望んだ結果をたたき出すことができたのだ。

この成功によって、社内で根強かったドラマに対する疑問の声は徐々に薄れていったという。その後パンドラはシリーズ化され、3つのシリーズと、2時間の特別ドラマが制作されている。

2009年にはさらにタブーに切り込んだ。「空飛ぶタイヤ」(全5話)だ。池井戸潤氏の原作は自動車会社のリコール隠し、タイヤ脱輪事故による死亡事故を題材とした作品で、モデルは三菱自動車だ。事故を起こした運送会社社長の主人公が企業の不正を暴き、対峙するメーカー側でも、不正の証拠をつかんだ社員が内部告発すべきか葛藤する。当然、地上波では映像化できるわけもない。

ただ、WOWOWのスポンサーは企業ではなくユーザー。だからこそ、この原作が選ばれた。「地上波ではできない作品をやることで、WOWOWに加入するメリットを感じてもらえる」(青木プロデューサー)。

「WOWOWでドラマをやりたい!」

社会的なテーマ、複数の人物に焦点を当てる群像劇、長編映画のような描き方など、独自のドラマ像は作り手の人材まで呼び寄せた。

連続ドラマ「パンドラ」を見てWOWOW入社を決意した岡野真紀子プロデューサー。若手ゆえに、撮影現場に足繁く通い、監督やスタッフと頻繁にコミュニケーションするという。キャストありきの企画書は「書いたことがない」と話す

以前、TBS系列の制作会社で「花王 愛の劇場」「ナショナル劇場」などを担当していた岡野真紀子プロデューサーはこう語る。

「地上波では、スポンサーの商品をよく見せたり、後でどんなスポンサーがついてもよいように現場で配慮しなければならず、表現の幅が限られてしまっていた」。

その制限はかなり厳しいものだったという。どんなスポンサーが入ってもよいように、車は架空のメーカーの車やエンブレムを用意する。殺害シーンでは、製薬会社に配慮して毒殺は避けるようにする。撲殺も灰皿ならOKだが、ゴルフクラブは使えない。「結局、崖や吊り橋から突き落とすしかなくなってしまう」(岡野プロデューサー)。

このままでいいのか。作り手として悶々とした感情を抱えていた時、目にしたのがWOWOWドラマだった。「地上波ではできないことを堂々とやっている。悔しい。私もやってみたい」。岡野氏は中途採用でWOWOWに飛び込んだのだった。

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