「ムカつく上司」と無意味な衝突を避ける法 「ヒューリスティック」を知れば大人になれる

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ここでやっかいなことが起こります。ヒューリスティックというのは経験知に基づいて判断することをいいますが、経験というものは人によってまったく違います。

例えば顧客からクレームが来たとします。あなたがもし現場で営業をやっていた人なら、そういう時はすぐに顧客のところに飛んで行って話を聴き、解決を図るのが良いと思うでしょう。ところが、本社に長くいた人であれば、本社に来るクレームとか苦情というのは多くが感情的なものなので、しばらく冷却期間をおいた方が沈静化すると考えがちです。

「避けようがない部分もある」と「大人の対応」も

どちらが絶対に正しいというわけではなく、顧客が何に対して不満なのか、またどういう性格の顧客かによって対応方法も違ってくるのですが、それに対して議論している時間はありません。

そこで上司である立場の人が、自分の経験に基づいて結論を出します。部下がたまたま異なる経験を持つ人であれば、「うちの部長は全然わかってない。そんなことやったら逆効果なのに!」と思ってしまうのです。

さらに面倒なのは、結果として部長の判断によってうまくいったとしても違った意見を持つ部下は「今回はたまたまラッキーだっただけだ」と考えることです。そして次に何か部長の判断によって悪い結果が出た場合、「それ見たことか」という感情を持ちます。部長は全く逆で、うまくいけば「やはり俺の言ったとおりだ」となり、うまくいかないと「今回はちょっと特殊ケースだ」と考えてしまうのです。それぐらい人は自分の経験知に引きずられてしまうものなのです。

もちろん、そうと分かっていても理不尽な決定をする上司に対しては頭にくるでしょうが、別に部長自体が悪いのではなく、「心理的に避けようがない部分もある」ということを理解するだけでもコミュニケーションは今以上によくなるかもしれませんね。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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