イエレン議長は、なぜ1カ月で翻意したのか FRBが利上げし損なったワケ

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講演でイエレン議長は「こうした手段をFOMCで積極的に検討しているわけではない」と強調したうえで、「たとえば」として、将来景気後退に入った場合にとることのできる金融政策の手段をいくつかあげてみせた。筆頭に挙げたのは、海外の中央銀行でも行われている「さまざまな範囲の資産の購入」。さらに、「2%のインフレ目標の引き上げ」や「物価水準ターゲットもしくは名目GDPターゲット政策」だ。

イエレン議長だけではない。いま中央銀行サークルの中で議論を呼んでいるのは、近い将来のリセッションや経済ショックに備え、中央銀行が放つことのできる「弾薬」、つまり金融政策手段がどこまで残されているかという論点だ。

最近、日本政府関係者周辺で浮上している日本銀行による「外債購入論」や「ヘリコプターマネー政策」も、根底には「金融政策の手段が尽きつつある」という問題意識がある。ちなみに、前述のジャクソンホール会合のテーマも、今年は「将来のために強靭な金融政策のフレームワークをデザインする」だった。

バーナンキ前議長はマイナス金利政策に傾く

前述のように、金融危機以降、各国の中央銀行は量的緩和政策やマイナス金利政策など、非伝統的な金融政策を矢継ぎ早に打ち出してきた。こうした政策は名目金利を押し下げ、家計の消費や企業の設備投資を下支えしたが、日銀のみならず、FRBやECB(欧州中央銀行)も、2%の物価目標に到達できないでいる。

バーナンキ前FRB議長は最近、自身のブログの中で、FRBの政策フレームワークを修正することの是非を検討している。具体的には、日銀が今年1月に導入したマイナス金利政策とインフレ目標の引き上げの2つを比較考量している。

前議長は「実行のしやすさ」や「コストや副作用」など4つの観点から2つの政策を検討したうえで、「マイナス金利政策がインフレ目標の引き上げより明確に劣っておらず、いくつかの観点ではより好ましい」と結論づけている。

バーナンキ前議長の思考実験のように、FRBが金融緩和の手段に行き詰まり、マイナス金利政策を採用する日がいずれやってくるのだろうか。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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