イエレン議長は、なぜ1カ月で翻意したのか FRBが利上げし損なったワケ
利上げ見送りの判断には3人の地区連銀総裁が反対したが、9月21日の記者会見でイエレン議長は「経済成長は最近上向き、労働市場は改善している。では、なぜわれわれは今日の会合で利上げを見送ったのか」との問いを立てた。
そして、労働市場のスラック(需給の緩み)の改善が若干遅れていること、労働市場の改善がもう少し見込めること、インフレ率が2%の目標を下回って推移していることを理由に挙げた。FOMCメンバーの大勢が見通す通りに、次回12月13〜14日のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げに踏み切ることができるのか否か。
今年に入って市場の利上げ見通しは何度も後ずれしており、とくに大統領選挙を11月8日に控え、政治的に嫌われる利上げの判断はますます難しいものになりそうだ。
「次の不況への備え」というチャレンジ
「債券投資家は3つの構造的な『チャレンジ』にさらされている。主要国における低金利とマイナス金利、マーケットリスクの高まり、流動性の低下だ」
ロンバー・オディエ・アセットマネジメントのチーフ投資ストラテジスト、サルマン・アーメド氏はこう指摘する。
2008年のリーマンショック以降、主要国の中央銀行は量的緩和をはじめとする非伝統的金融緩和策を進め、国債の多くを中央銀行が保有するようになっている。その結果、金利が低下したのはよいが、市中に出回る債券が枯渇(流動性の低下)し、投資家がより高い利回りを求めて高イールド債やエマージング債など、特定のリスク資産に集中する「群衆化」現象が起きている。金融機関に対する規制強化も、流動性悪化に一層拍車をかけている。
中央銀行にとっても、今の状況は実にチャレンジングだ。
金融危機後、米国の景気拡大は8年目(87カ月)に入っている。戦後の拡大局面の平均が約5年間(58ヶ月)ということを考えると、そろそろ景気がピークをつけてもおかしくない。ジャクソンホールでのイエレン議長の講演の主題は、次のリセッション(景気後退)がやってきたときに、FRBがとることのできる手段が残されているか、という問題意識だった。
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