ドル円は年度末95円から来年度90円に進む

「緩和=通貨安」の鮮度失い、来年も円高警戒

とは言え、金融緩和の効果が薄れている理由は、ほかにも考えられる。まず、日米ともに潜在成長率が下がり、自然利子率(景気を熱しも冷ましもしない金利)が下がっている可能性がある。金融政策が働くメカニズムは、景気や物価に中立とされる自然利子率よりも実質金利を下げることで、景気を浮揚させることだ。仮にその自然利子率が下がっているとすれば、実質金利との差が縮小し、景気浮揚効果が弱まっている可能性がある。

特に、予想物価上昇率が2%前後で推移している米国では、実質金利はマイナスとなっているはずだ。しかし、日本の場合、予想物価上昇率がゼロ近辺のため、実質金利はそれほど下がらないということになる。このため、やはり日銀は、実質金利を下げるために、マイナス金利(名目金利)の深掘りという政策をとる可能性が高いだろう。

金融緩和効果が薄れているもう1つの理由は、金融緩和にそもそも賞味期限があるためだ。金融緩和は、生産性を高めるわけではなく、あくまでも通貨安という追い風を利用した景気浮揚のきっかけになるとの側面が強いとみられる。

ただし、この追い風は5年も10年も続くわけではないようだ。リーマンショック後の日米欧の経験則を踏まえると、せいぜい3年だろう。例えば、米国も資産の買い入れ(QE)をQE1、2、3と3回実施したが、ドル安誘導に成功したのは、QE2までだ。2012年9月のQE3以降は、ドルは徐々に持ち直している。日本の場合も、QQE(量的質的緩和)導入以降、2015年半ばまでは円安が続いたが、昨年6月をピークに円高が進んだ。さらにユーロ圏でも、ECB(欧州中央銀行)が2014年6月からマイナス金利政策を導入し、ユーロ安を招いたが、昨年12月の追加緩和以降、いくらマイナス金利幅を拡大しても、もはやユーロ安とはなっていない。

さて、一方の米国の金融政策について見ると、利上げがあるにせよ、いつなのかが不透明である上、あった場合も極めて緩やかなペースという見方が強い。この程度の利上げ観測では、経常収支赤字国通貨であるドルの上昇は容易ではない。もちろん、それでも世界的な低成長が見込まれる中、ドルは新興国通貨などに対しては一定の強さを維持しよう。しかし、経常黒字国通貨である円に対しては、上昇するのは難しく、次第に下落圧力が強まるだろう。

米国景気はピークアアウトした可能性が高い

FRB(米国連邦準備制度理事会)のイエレン議長は8月末のジャクソンホールでの講演でも利上げが近い可能性を市場に示した。しかし、8月の雇用統計が市場予想を下回った上、8月のISM製造業景況感指数が49.4と景気拡大・縮小の分かれ目とされる50を割り込んだ。また、ISM非製造業景況感指数も51.4と2010年2月以来の低水準となっている。米国の景気拡大は8年目に突入しており、ピークに達した可能性を疑う必要がありそうだ。

とくに注目しているのは、米国の新車販売台数だ。2015年10月には季節調整済み年率換算で1800万台を突破するなどITバブル期並みの数字を記録した。しかし、その後は、1700万台、1600万台と減少基調にある。原油価格の下落を追い風に自動車が売れたことが、今回の米国の景気回復局面の一つの象徴でもあり、注意を要する。また、19の労働市場関連の指標から編み出す「労働市場情勢指数」(LMCI)も2016年に入って、1月から6月および8月分がマイナスになるなど、労働市場の改善も既に大きくペースダウンしているとみられる。

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