「シン・ゴジラ」の防衛大臣はプロ失格である

自衛隊特殊部隊創設者が感じたこと

一方、防衛省のトップとして総理大臣に決断を迫らなければならない時もある。住民の避難は完了したとの報告を受け、陸上自衛隊の対戦車ヘリに発砲を許可した直後、2名の民間人を発見した時のことである。

あの時、総理大臣は、2名の民間人を発見し攻撃中断を命じた。しかし、民間人を発見しようがしまいが、巨大生物撃滅の必要性は何も変わってはいない。必要性があって、撃滅を決心し、命じたのだから絶対に撃滅させなければならない。2名の民間人を発見したことは、撃滅する必要性を変化させるものではなく、撃滅のために行う攻撃より優先すべきことが一時的に発生したにすぎない。

だから、撃滅せよと命じられている自衛隊は、攻撃より優先すべき事項をなくそうとするし、それがなくなれば、攻撃するのである。では、総理大臣が攻撃より優先すべきと判断したものは何か? 

攻撃より優先すべきと判断したものは?

それがあいまいなのである。発見された2名の民間人の保護なのか、避難完了という報告がされた地域の再確認なのか、が判然としない。そこが明確になっていないので、再攻撃の条件も「民間人2名の避難完了」なのか「攻撃による犠牲者を絶対に出さないための確認の完了」なのか「多少の犠牲を覚悟し、時間で割り切った確認の完了」なのかが判らない。

人間は、行動を起こそうと重い腰を上げたときに中断せざるを得ない事象が発生すると、心の中ではホッとして、一気に気が抜けてしまうものなのだ。だから、行動する必要性を強く認識し、実施することに情熱を傾けて続けないと、一旦中断し再開の機会を探るべきときに、止める理由やその方法を探ってしまう。また、再開するときというのは、気が抜けた状態を引きずっていることが多く、思わぬ失敗や事故を発生させやすい。

オリンピック陸上、100メートルの決勝でスターターピストルが鳴る寸前は、選手は無論のこと、スタジアムの観客やテレビを見ている人でさえ神経を集中している。そのときに誰かがフライングを起こしてしまうと、当該選手は失格になるが、レースはすぐに再開される。しかし、もう好記録は期待できない。4年に1度しか行われないオリンピックの決勝で、選手がやる気を失っているわけがない。だが、好記録は出ない。

それは、オリンピックの決勝に残ってくるような選手でさえ、さっきと同じレベルまで神経を集中することは、非常に困難であり、実質不可能だからである。

だから、総理大臣が攻撃の中断を決心したとき防衛大臣は、自分自身は無論のこと、総理大臣が心の中で「ゴジラへの攻撃をしなくて済んだ! ふぅ~」だなんて気が抜けてしまわないかを、注意して見ていなければならなかったのだ。そして、総理大臣の気が抜けてしまって、攻撃再開に関する発想が浮かばなくなっている場合でも、それを迫らなければならない。

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