「国連の機能を補完する小規模な会合の必要性」ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

完全無欠な組織の登場を待っている余裕はない

 とはいえ、なんとか肥大化を抑えた上で、新しい国際的な組織を設立しようという動きも見られる。

 たとえば外交問題評議会のトッド・スターンや、ブルッキングス研究所のウィリアム・アンソリス専務理事が提案しているのは、先進国と途上国で構成される小規模なフォーラム“E8”である。

 E8とは、アメリカ、EU、日本、ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカの8カ国・地域で構成される会合で、年に1度、環境問題や気候変動の問題に絞って話し合う。参加国には、温室効果ガス排出量の上位6カ国が含まれ、世界のGDPの4分の3が集中している。

 もちろん、取り上げる問題を一つに絞ることには批判もある。各国首脳の時間は稀少な資源であり、国際的な問題を議論するため、頻繁に会談に出席するのは非効率的というのが、批判する側の言い分だ。しかし会議の出席者が頻繁に交替しても、個人的な関係が作りづらくなり、交渉の余地は狭まるだろう。

 カナダ元首相のポール・マーティン氏は、G8とG20蔵相会議に出席した経験から、“L20”と呼ばれる非公式会合を創設することを提案している。

 “L”とは“Leader”の頭文字。出席者は指導者に限定されるという意味である。L20は当初のG8が持っていた「非公式で柔軟な組織」という特徴を引き継ぎ、気候変動や国際紛争処理などの問題に対し、非公式な諮問機関としての役割を担う。

 マーティン氏は、各部門にまたがる難しい問題に取り組むには、「20名程度のグループが適正規模」と主張している。グループが大きいと現実的な議論は難しい。またグループが小さすぎても、各地域の意見を集約しづらくなる。だからこそ現在のG8に他の指導的な国を加え、さらに経済的な地位にかかわりなく、各地域の有力な国を集めるべきだと主張しているのだ。

 ブラジルの元外務事務次官マルコス・デ・アザンブージャ氏も、「政治力と経済力に大きな差がある200カ国が、大会議に参加して国際問題を議論することなどできない」と指摘する。同氏が主張するのは、

 “L14”のような小規模な組織こそが、常に変化する世界の課題に対処できるということだ。同氏が考える参加国には、G8に中国、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコ、そしてイスラムのいずれかの国が含まれる。

 構成メンバーはどうあれ、そうした会合は、各国政府の官僚を動員しながら、国際問題の解決に向けて、国連の補完的な役割を果たすはずだ。もちろん、参加国をどのように選定するかという以外にも課題は残る。たとえば運営のために事務局を設置すべきか、あるいは各国の担当者による準備会議だけでよいのかといった課題である。前者は官僚主義につながる危険があり、後者は継続性が犠牲になりかねない。

 これらの会合の案は、まだ不完全なものばかりだ。しかし、振り子は一国主義から多国間主義へと振れている。長々と交渉を続け、暗礁に乗り上げる事態を避けるためには、完全無欠な組織が登場するのを待っていられる余裕はないはずだ。

(C)Project Syndicate

ジョセフ・S・ナイ

1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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