石油資源開発が待ち焦がれる「油価50ドル」 和製メジャーが初の営業赤字に転落した事情

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海外を中心とした油ガス田の開発・生産を手がける、同業最大手の国際石油開発帝石(INPEX)に対し、JAPEXはもともと北海道、秋田、山形、新潟など、国内の原油・天然ガス田が基盤の”掘り屋集団”だ。1955年に創立された官営会社で一時、石油開発公団にも編入されたが、1970年に分離して民間企業となった(現在も経済産業省が34%保有の筆頭株主)。

ところが、新規開発が進まず、国内の原油・天然ガス生産量は、2007年をピークに生産減退が進んでいる。そのためJAPEXは近年、「海外シフト」を掲げ、実際、前中期経営計画期間の2011年3月期から2015年3月期までに総額3900億円の積極投資を行い、うち約8割を海外に投じた。

中でも、JAPEXが2009年12月の国際入札で開発生産権を取得した、イラク南部の「ガラフ油田」は、政情不安の中で獲得した同社肝いりの大型案件だ。2013年11月に商業生産を開始してから、現在は日量平均10万バレル(うちJAPEX取り分30%)と、JAPEX全体の生産量である日量7.3万バレルの約4割を占める。

カナダのオイルサンド事業で一部生産を凍結

ただ、原油相場や為替の影響をほとんど受けてこなかった国内事業に対し、こうした海外事業はモロに市況変動リスクを受ける。海外の生産量・埋蔵量が全体の約7割(2016年3月末)と大半を占めるようになったことで、原油安と円高という最悪の市況に襲われた。積極的な海外事業の開発投資で、年間170億円程度の減価償却費が負担となっているのも、業績には重石だ。

海外事業の中には相対的に生産コストの高いプロジェクトもある。JAPEXは今年5月、非在来型原油で損益分岐点の高い、カナダのオイルサンド事業(2003年から商業生産)の一部鉱区で生産を凍結した。「油価が50ドルに回復すれば、経済性をもって生産を再開できる。それまで埋蔵量を取っておく」(JAPEX)。競争力の高い隣接鉱区の拡張開発は、2017年度生産開始へ計画を崩さないものの、厳しい事業環境が続く。

JAPEXが修正した、第2四半期以降(2016年7月~2017年3月)の原油価格の前提も、50ドルだ。足元の原油相場は、9月に開催されるOPEC(石油輸出国機構)臨時会合での増産凍結期待が出る一方、積み上がる石油在庫や米国の利上げ観測による下押し圧力も強く、40~50ドルで一進一退が続いている。JAPEXが収益をあげられる1バレル=50ドルを超えられるか。しばらくの間は正念場が続きそうだ。 

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年4月から再び『週刊東洋経済』編集部。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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