ムダな病院代は「遠隔医療相談」で節約できる 真に必要な患者に「医療資源」を集中すべきだ

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乳児が重症化する兆候は、素人では判断できないため、親であれば真っ先に病院に連れていくことが通常の思考となるだろう。しかし、今回の事例のように、医師が相談相手になれば、遠隔でも分かることはたくさんある。病院に行くべきかどうか、行くとしてもどのタイミングで行くか、適切なアドバイスを行うことで、患者、医師両方の手間と時間を削減することができるのだ。

また、病院だと診察まで長い間待たされたあげく、流れ作業のように2~3分で終わってしまうことも少なくない。短時間しか確保できなければ、多面的に健康状態について相談することは難しい。しかし、遠隔医療相談サービスでは、15分と比較的長めに時間を取ることができる。

「花粉症の診療に特化した実証実験を行っている時に、医師の方々に『何か他に悪いところはないですか、何か相談に乗りますよ』と相談を促してもらったら、普段病院ではなかなか聞けない花粉症以外の悩みも色々出てきた。法的な問題が出る可能性がある診察や診療でなくても、相談ベースに特化しても十分価値があり、患者さんのメリットも大きいことが分かった」(林CEO)

小児科の他に有効と考えられる領域は、脂質異常症や高血圧など、比較的複雑な診断が必要にならない内科の慢性疾患や、通院していることを知られたくない人が多く、プライバシーの問題が大きい精神科だという。特に精神科は、現時点でもリピーターが多く、需要が大きいと見込む。

法人へのサービス提供で収益化を狙う

メディプラット代表取締役CEOの林光洋氏(撮影:梅谷秀司)

ビジネスモデルは、ユーザーから使った分の従量課金、ないしは月額会員課金も今後予定しているが、BtoBの形をメインに据えることを視野に入れている。例えば、「カード会社などの会員基盤を持っている会社のオプションサービスや、従業員を多数抱える企業の福利厚生における一つの選択肢として考えていただいている」(林CEO)という。

アメリカの市場調査会社の予測では、遠隔医療の機器・サービスの世界売上高は、2018年には45億ドルまで増加するといわれている。2013年には4億4060万ドルであったから、その時点から考えて、実に10倍の増加だ。メディプラットの親会社であるメドピア社が実施した調査では、医師の4割弱が「遠隔診療に参画したい」と回答している。日本でも、遠隔でまず医師に相談するという行動が一般的になる日は遠くないかもしれない。医師の空き時間と、患者のニーズをマッチングさせることで、人々が医療と接触する機会を増やすことは、国民の健康管理のクオリティを確実に向上させ、ひいては医療費の削減という社会的課題の解決にも寄与していく可能性が高いといえる。

ただ、課題も存在する。医師が関わる中で「相談」が実質的に「診察」となる可能性を内包していることだ。遠隔で完結することが原則禁止されている「診察」とは、厚生労働省の通知によると「現代医学からみて、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」とされている。定義が曖昧で、「相談」との境目をつけることは簡単ではない。実際の相談事例の中で、この区別をどのように判断するかは、工夫が迫られるだろう。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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