このデータの中に「出生の年月日」と「と畜」の日付がある。これを差し引きすると、肉牛が何カ月でと畜されたかがわかる。あくまで一般論だとお断りしておくが、片方が24カ月齢、もう一方が27カ月齢だった場合、私なら長く生きている後者の牛を選ぶ。一般に、月齢が長いほど味わいも蓄積されると考えられるからだ。最近、国産の牛が足りない状況なので、産地が通常より若い牛を出荷するケースが多い。しばらく前にどうも味も香りも薄いと思って調べたら、23カ月齢という若い雄牛だった。オスなら26カ月以上、メスなら30カ月以上は飼ったほうが、よい味わいになると私は考える。
ちなみに、たまに60カ月齢以上というような、長く飼われた牛の肉が販売される可能性がある。性別がメスだった場合は、母牛として飼っていた牛(経産牛という)が肉に回されたものと考えていい。子牛を産むためには太りすぎてはよくないため、あまり肉付きがよくないのが普通だ。そこで、再肥育といって肉牛用の餌を与えてしばらく育てることで、太らせてサシも入れるような期間をとることがある。
例として実際に、私が所有していた経産牛を再肥育してお肉にしたときの状況を見てみよう。先の個体識別情報検索サービスに「1231175826」と入力していただきたい。先の若い牛よりも長く移動履歴があることがわかるだろう。最後の方で斉藤さんという肥育農家さんのところに5カ月滞在したのが再肥育の期間だ。これだけ時間をかけて肥育すれば、経産牛もとてもおいしい肉になることが多い。
長い期間肥育された牛のほうがおいしい
経産牛は一般に、肉色が濃くなり硬くなるという人もいるが、再肥育がうまくいけばおいしい肉になっている可能性が高いので、私の場合、見つけたらすぐに買うことにしている。ただし、長い期間飼われていた牧場から直接と畜されている場合は、ろくに再肥育をせずに肉になっていることがある。そうした場合は味わいに欠けるときもあるので要注意だ。通常、そうした肉は挽き肉などに回されるので、売り場にそのまま並ぶことはないとは思うのだが、知識として知っておくといいかもしれない。
次に、と畜日と、今まさに買おうとしている日付を差し引きし、と畜後から何日経っているかを計算してみてほしい。私なら、1日でも多い日数の肉を選ぶ。牛肉は、と畜してすぐの状態ではあまり味や香りのない、ブリンブリンとゴムのように弾力性の高い状態である。それを一定の温度で冷蔵していくと、徐々に体内にある酵素の働きでタンパク質が分解され、軟らかくなりおいしさも増していく。これが肉の熟成だ。ただし、スーパーマーケットなど生の精肉を販売する売り場では、鮮やかな肉の色であるほうが売りやすいので、肉が黒ずまないように早い段階でスライスして販売してしまう傾向にある。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら