絶好調「マリコン」は、なぜ大型船を造るのか ゼネコン業界は、海の仕事も旺盛だ

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洋上風力は陸上よりも安定した風が吹き、騒音問題も起こりづらいといったメリットがあり、欧州で発電が盛んに進む一方、日本では導入が本格化していない。政府は洋上風力の導入を促進する方針を掲げるが、日本の海は欧州と比べて浅瀬が少なく、海底に基礎を固定する着床式の洋上風力を導入できるエリアが限られている。

そこで、国交省は7月、電力系統に接続しやすい港湾区域内での洋上風力の設置をより円滑に実施できるように港湾法を改正。すでに北九州の港湾区域内で洋上風力発電の導入計画が進んでおり、今後は国内で需要が拡大する可能性がある。五洋建設が船舶建造に踏み切ったのも、こうした背景があるからだ。

一方、マリコン3位の東洋建設も、40億円超を投資して大型自航式多目的船「オーガスト エクスプローラー」を建造している。新しい大型船の導入は2001年以来となる15年ぶりで、来年度から本格稼働する見込みだ。

同船は全長約90メートル、幅約27メートル。船内には広いデッキスペースと50人以上が居住できる空間を確保し、3カ月程度は港に寄らず、長期滞在しながら作業できる航海能力がある。通常の海上土木工事に加え、南鳥島などの港湾整備に代表されるような「遠隔離島」での作業や、海底資源調査での活用も想定しているという。

マリコンがこうした設備投資に動くのは、業績が好調に推移していること、既存の船舶が老朽化していることに加えて、今後さらに海上工事の需要拡大が期待できるからだ。海上工事の案件を獲得するには、工事を短工期で安全かつ確実に実施できる、作業船の有無が大きく影響するという。

ゼネコン業界に海上でも追い風

最近では、政府が掲げる国際競争力強化のため、大型のコンテナ輸送船も入港できる港湾の整備に予算が重点配分される傾向が強まっている。また、先日決定した国土交通省の2016年度第二次補正予算案には、大型化するコンテナ船などへの対応を見据えた港湾整備とともに、訪日観光客向け大型クルーズ船の受け入れ環境を改善するため、岸壁を改良する費用なども盛り込まれた。こうした事業は、技術とキャパシティを持った大手マリコンにとって勝負どころとなる。

マリコンは五洋建設、東亜建設工業、東洋建設の大手3社を中心とした特殊な業界。好決算が続く建設業界では民間工事が大手ゼネコンの業績を押し上げるが、マリコン3社は国内工事の4~6割前後を官公庁が占める。

公共工事は価格や技術力で評価される競争入札が基本。ただ、競争相手が限られているだけに、競合が多い一般のゼネコンと比べて過当競争に陥りにくい。港湾などへの公共投資が続く限りは、比較的安定した収益が期待できる。

陸上では首都圏を中心に再開発や五輪関連施設の建設ラッシュが盛り上がりを見せ、大手ゼネコンは今期も繁忙が続く。海上でもしばらくはマリコンへの追い風が吹きそうだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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