シン・ゴジラ、唯一の虚構「カヨコ」の存在意義 徹底した現実感を「空回り」させない仕掛け

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役どころも不思議です。大杉漣演じる一人目の首相も、平泉成演じる二人目の首相も、アメリカからの要請を無茶苦茶だと表現しているのに、矢口や竹野内豊演じる赤坂との交渉では、すんなり日本側の提案を受け入れるため、そんなので特使として本国から怒られはしないのだろうか、と疑問に思うシーンもあります。

彼女は、40代で大統領になるという荒唐無稽な目標を持っていますが、劇中では実現可能な目標として描かれているのもリアリティに欠けています。祖母が日本人であるという設定により、対ゴジラの最終手段として核兵器の使用を決定した本国に対して嫌悪感を持ち、矢口が提唱するヤシオリ作戦に協力するというのはわからなくもないですが、その件に関しても何故彼女だけ、そういったバックボーンがあるのかという点も特殊であると言わざるを得ません。

シン・ゴジラとエヴァンゲリオンの類似点とは?

シン・ゴジラに登場するゴジラは、庵野監督の代表作であるアニメ「エヴァンゲリオン」でいうところの“使徒”に相当する、というのが大方の見方となっています。こちらにはエヴァンゲリオンのような強力な存在は登場しませんが、使徒が襲来し、正規軍などの攻撃をものともしないなか、非正規組織であるネルフが対策にあたる感じは、矢口率いる各省庁のはみ出し者が対ゴジラの作戦を遂行するところに近しいものがあります。

ほかにも、人間が不完全な群体であるのに対して、ゴジラは完全な単体として描かれているところなども、エヴァンゲリオンの世界観に通じます。

そんな類似性の中で、カヨコ自身もエヴァンゲリオンの主要キャラクターである式波(惣流)・アスカ・ラングレーとの共通点が多くみられています。その為、カヨコはシン・ゴジラにおいてのアスカだとする声がよく聞かれます。これみよがしにロングヘアーをなびかせ、主要3キャストの中で唯一遅れて登場したりと、いろいろ共通点が見受けられます。

ただ、それ以上に、作品のなかにおける存在感に近似性を感じます。エヴァンゲリオンにおけるアスカの役どころは、14歳ながら飛び級で大学を卒業し、バイリンガルでモデル並の美貌とスタイルを持っています。さらに、登場するやいなやひとりで使徒を倒してしまうと言う万能ぶりも発揮するなど、エヴァンゲリオンと言う虚構の中においても突飛な存在です。いわゆる設定重視のキャラクターとして扱われています。

ちなみに市川実日子演じる環境省の官僚・尾頭ヒロミは、同じくエヴァの登場人物であるレイを彷彿とさせます。キャラクターと作品中での仕事っぷりを見ると、カヨコはアスカ+ミサト、ヒロミはレイ+リツコという印象も受けますが……。

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