安倍首相のマリオ姿を世界はどう報じたのか 海外メディア、ネットの反応は?

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一方で、この奇想天外さに、国内では眉を顰(ひそ)める人も少なくないようだ。「政治家が出るのはどうか」「安倍首相の登場に非難と嘲笑」などと書き立てるメディアもある。

確かに、日本人らしからぬ、「突き抜け方」であるのは事実だ。しかし、「前例のないことはしない」と見られがちな日本人が、ここまでのことをしたことに一種の爽快感も広がったのではないか。

リーダーには遊び心があってもいい

そもそも、一国のリーダーには「笛吹き役」「道化役」を演じる遊び心があってもいい。アメリカのオバマ大統領はソーシャルメディアなどとうまく使い、有権者・国民と直接的なエンゲージメント(絆)作りを進めており、自ら主役を務める動画を時々リリースして、政策をアピールする。例えば、ヘルスケアプランをプロモートするために、オンラインメディアのBuzzfeedと共同で制作したユーモアたっぷりのビデオがある。大統領を辞めたら何をするかを模索して探し回る姿をコメディタッチのストーリーにしたビデオも、かなりよくできている。単純にエンタテイメントとしても面白く、その堂々した役者ぶりには舌を巻く。

イケメンで有名なカナダのジャスティン・トルドー首相も驚異の肉体技を誇るヨーギ(ヨガをする人)であり、ボクシングのチャリティーマッチなどでも意外な才能を発揮する芸達者でもある。あの強面のロシア大統領、プーチンも、毎年、国民からの質問に生放送で答える「プーチン・ホットライン」という番組で、ユーモアも交えた当意即妙のやり取りを見せ、国民に絶大な人気を誇っている。グローバル時代のリーダーには度胸と愛嬌、そしてパフォーマンス力が必須ということだ。

「2020年は日本が世界という舞台にre-emergence(再登場)する最大のチャンスだ」。世界的PR会社ウェーバーシャンドウィックのアンディ・ポランスキーCEOは力説する。日本人らしい慎み深さ、奥ゆかしさは美徳ではあるが、魑魅魍魎の世界の舞台で再び伍していくためには、「日本人らしさ」という枠を超える突き抜けた発信力・表現力が絶対的に必要だ。「卓球の水谷選手の肩から上に手を挙げるガッツポーズはけしからん」などと意見を述べる御仁もいらっしゃったが、スポーツの感動は、選手の喜び、悲しみ、驚きなどの素直の感情表現の姿から生まれるものであり、それを自制せよ、という意図がよくわからない。

そもそも、日本人選手の感情表現は、海外選手に比べると圧倒的に控えめだ。そこにさらにタガをはめる必要などまったくないように思う。逆に感情表現をもっと豊かにすることで、さらに感動を呼ぶこともできるはずだ。安倍首相も、あそこに登場する思い切りはよかったが、笑顔が足りなかった。あの場面で、笑顔をほとばしらせることができていたら、さらに盛り上げることができただろう。日本人のコミュニケーションにおけるエモーショナル(感情)アピール力の向上は2020年に向けた大きな課題の一つといえる。

オリンピックという一大パフォーマンスの場で求められるのは「型にはまった」「規定内」の演技ではない。周囲の期待をいい意味で裏切る「型破り」で「想定外の」サプライズであり、興奮だ。日本人の「枠」を超えることを怖れない「はみ出し力」「突き抜ける力」を鍛えること、突き抜けようとする人の足を引っ張らないこと。2020年の東京五輪に向けて、求められるグローバルコミュ力養成の第一歩は、このあたりから始めるべきかもしれない。
 

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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