日本人が何気なく多用する「合掌」本当の意味 海外から見た「亡き人と話す」不思議な光景

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次に、私の友人からの2つ目の質問である「なぜ掌を合わせながら仏壇に話しかけ、亡き人と話すことができるのか」ということですが、これはまだ明確になっていません。仏壇の前に合掌して座って語りかけるという情景は、家に仏壇がある家庭で育った方であれば、だいたいの方がなんとなく分かるのではないでしょうか。では、一体何がこの情景を作り出しているのでしょうか。

日本人の思いの体現

この情景における合掌は、主に亡き人を偲(しの)ぶ日本人の思いの体現だと思います。これは仏壇だけではなく、お墓参りも一緒です。お仏壇やお墓を目の前にして手を合わせない人はいません。これは、日本の亡き人を偲ぶ礼法です。

日本にはモノを擬人化する習慣があります。例えば、「大根さん」、「カミナリさん」、「机さん」などとモノに「さん」を付けて呼ぶことで、尊敬の念や親近感を持とうとします。この延長で、多くの方々が仏壇に安置されている仏像、位牌、または仏壇そのものを亡き人と重ね、「仏さん」「じいちゃん」「ばあちゃん」と呼んでは大事にしています。

実は、亡き人を仏として考えるのは、日本独自の発想なのです。よく成仏と言いますが、この「仏」とは、「悟った者」「目覚めた者」の意味で、元来「亡くなった人」を意味するものではありませんでした。しかし、亡き人を尊ぶ日本の土着精神文化が仏教と融合し、亡き人を仏という尊い存在とすることで、尊い気持ちを持って亡き人を偲び、悲しい気持ちを癒すという習慣が生まれたのです。

しかし、実際に仏壇に合掌して語りかけている時、本当に亡き人と会話しているわけではありません。実は、これは亡き人を偲びつつ、自分自身を振り返っているのです。

人は、忙しい日常生活では、自分の初心や足元を忘れがちになり、時として一時的な感情に任せて謝った判断をしてしまいがちです。そんな時、仏壇に手を合わせることで、亡き人の生前の教えや思い出を噛みしめ、自己の反省をしたり、冷静な自分を取り戻すのです。この場合だと、合掌は「Reflection of oneself through the deceased.」(亡き人を通した自己内省)となるでしょう。

もしご自宅の仏壇に手を合わせたり、お墓参りをしたりする機会があれば、合掌の心を踏まえたうえで、今の自分自身と向き合ってみてはいかがでしょうか?

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大來 尚順 浄土真宗本願寺派僧侶

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おおぎ しょうじゅん / Shoujun Oogi

1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳・翻訳、執筆・講演などの活動を通じて、国内外への仏教伝道活動を実施。翻訳著書も多数出版する傍ら、初級英語で仏教用語をやさしく解説した「英語でブッダ」(扶桑社)も非常に好評のほか、「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系列)にも出演。
 

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