アフリカの「華僑」は漢民族だけではない ウイグル人もエチオピアで働いている

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建設現場の一角に設置された中国労働者のためのプレハブ宿泊施設 ©Kiyori Ueno

一方、アディス市内にも、はるか遠い新疆ウイグル自治区からエチオピアに商機を求めてやってきた若い女性がいる。色白の肌に長い茶色の髪の毛、人懐っこい表情が特徴の29歳のチャン・ジエだ。現在は幼なじみの女性と2人で同市内でウイグル料理のレストランを経営している。

新疆ウイグル自治区の首都ウルムチから約360キロ離れた町の出身のチャンは大学進学でウルムチに出てきて、会計学を学んだ。エチオピアに来たのは6年前。幼なじみの父親がアディスに渡って建設材のビジネスを始め、同行した幼なじみに父親の仕事を手伝わないかと誘われたのだった。「大学を出たばかりで、仕事を見つけようと思っていた。けれども、中国で毎日同じでつまらない仕事はしたくなかった」と言う。

エチオピアにやってきた決め手は?

「信頼できる友人たちもいるし、幼なじみのボーイフレンドがエチオピアは安全だと言っていたので安心だと思った。(世界の)他の場所を見てみたいという好奇心もあった」。決め手は経済的な理由だった。「中国での給料に比べれば、2~3倍のおカネが稼げる。よりよい暮らしができると思った」と言う。

その後、このビジネスで大成功した幼なじみの父親は中国に戻った。しかし、幼なじみとチャンの2人はエチオピアにそのまま残り、昨年8月にレストランをオープンした。外国人がレストランを開くのは許可されていないため、友人のエチオピア人と組んでようやくオープンにこぎつけたという。

新疆ウイグル自治区出身のチャンがアディス・アババで経営するウイグル料理店で出される料理 ©Kiyori Ueno

レストランを始めるにあたり、インターネットでウイグル料理ができる料理人をウルムチで探し、3人雇ってきた。これらの料理人にはウルムチの2倍以上の給料を支払っているという。

食材は基本すべて新疆ウイグルから買って来る。アディスでは多くのレストランが日曜日は閉まるなか、チャンのレストランは春節の時以外は昼も夜も週7日営業している。チャンの店は日曜日もランチから中国人客でいっぱいだ。在エチオピアの日本人も訪れるほどの人気店だ。

チャンは「レストランの計画をしている時には、初めはお客さんはそれほど来ないかもしれないと思っていたが、いずれ増えるだろうと思っていた」と話す。「せっかくやるからにはベストのお料理を出したいと思っている」。

チャンの生き方は現実的であるとともに柔軟でもある。エチオピアに骨を埋めようという覚悟を決めている訳ではない。「エチオピアでの生活はまあまあ。仕事しかしていない。将来についてはまだ決まっていないけれど、あと3年は少なくともいるつもり」と話す。「エチオピア人と結婚?文化があまりにも違いすぎるのでそれはないと思う。言葉の壁もあってコミュニケーションも難しいから」と言って笑った。

(文中敬称略)

上野 きより ジャーナリスト、元国連職員

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うえの きより / Kiyori Ueno

ブルームバーグ・ニュース東京支局、信濃毎日新聞社などで記者として働いた後、国連世界食糧計画(WFP)のローマ本部、エチオピア、ネパールで働き、食糧支援に携わる。2016年から独立。慶應義塾大学卒業、米国コロンビア大学院修士課程修了。東京出身

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