米国株が最高値でも日本株がイマイチな理由 日経平均は1万7000円を簡単に突破できない

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Fedウォッチを確認(東京時間6日8時30分時点)すると、9月のFOMCでの利上げを予想する割合は18.0%と雇用統計前の水準(9.0%)比では2倍となっている。では、今年最後の12月14日のFOMCでの利上げを想定する割合はどうだろうか?

こちらも46.5%と雇用統計前の水準(32.1%)より増加している。昨年12月に利上げを実施した際、利上げを想定する割合は70%を超えていたことを考慮すると、7月の雇用統計の内容は、年内利上げ期待を押し上げるものとなったが、年内の利上げ実施が難しいことに変わりはない。年内利上げの有無に関しては、引続き8月の雇用統計の内容や、落ち込んでいる設備投資の回復などを見極める必要はありそうだ。

さて、このポジティブ・サプライズを受けて、週明けの日経平均はどういった動きを見せるだろうか?米金利引き上げ期待が高まったことから、米景気への先行き不透明感が後退し、為替市場で円高ドル安の進行が一服したことは好材料だ。

ただ、年内の利上げ実施は難しいという見方に変化が無いことや、足元の日本国債の価格下落が影響して日米金利差が縮小傾向にあることなどから、円安ドル高の地合いが一気に強まる展開は難しそうだ。週明けの東京市場は買い優勢で取引スタートとなりそうだが、日経平均を押し上げるような持続力は乏しいと見る。

そもそも日経平均は、日銀によるETF買い入れによって、需給面では既に下落しにくくなっている。まだパターンが少ないことから、日銀がETF買い入れを実施する運用が確立していないが、前場のTOPIXが前日比+0.07%だった5日、買い入れは見送られた(設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF買入は常に12億円入る)ことから、今のところ前場TOPIXがある程度下落していれば、後場ETF買入が実施されるとの見方だ。

前場が下落すれば、日銀がETFを買ってくる。それも700億円前後(4日は707億円だが、毎回この金額かどうかはわからない)の規模で市場に入ってくるわけだ。売り方にとっては非常にやりにくい。日銀が買入を実施する以上の資金で先物売りを浴びせれば、指数は崩れるだろうが、市場の先行き不透明感を示す指数である日経VI(ボラティリティ・インデックス)が21p台と大発会以来の水準まで低下していることを考慮すると、短期筋の投資家は値動き鎮静化を嫌気して積極的な売買は手控えるだろう。

株価はなぜ上がりにくいのか?

つまり現在の日経平均は非常に下げにくい状況にあるわけだ。ただ、9月の日銀会合に向けて海外投資家の参戦は手控えられる可能性が高い(7/30号を参照)ことや、日銀は前場プラスの局面では買い入れを実施しない公算から、日経平均が上値を追うのも難しい。当初の想定通り、日経平均は下がりにくく、上がりにくいといった地合いが続くと考える。薄商いでの1万6000円から1万7000円のレンジ相場をイメージしている。

なお、日銀によるETF買い入れの需給面を考慮すると、ファーストリテイリングなど日経平均の指数寄与度が高い銘柄は相対的に強含む展開となろう。8月の第1週は、明治HDなど内需株が売られた一方、ここ最近さえなかった同社やトヨタ自動車に資金が向かった。

一部では数千億円規模の大規模なリバランスが実施されたとの話も聞かれる。トヨタが決算だけで買われたのか、それともTOPIX寄与度の高さが意識されて買われたのかどうかはわからないが、投資資金の流れは変化しつつあるようだ。もっともリバランスが入っているだけで、新規資金流入の観測は伝わってこない。
 

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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