日本人が信じてやまない「法治主義」の死角 「舛添問題」は哲学的に見てきわめて興味深い

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その後彼に会ったことはありませんが、1度真剣に訪ねていこうと思ったことがある。昔のよしみを利用して、東京都の「文化騒音(駅構内や車内、銀行のATMなど、いたるところにキンキン響く垂れ流しテープ音など)」を削減してくれるよう、仲間と一緒に舛添さんに陳情に行こうか、と思ったのです。

ちなみに今回の都知事選において、小池百合子候補が「電線・電柱を地下化すること」を公約に取り上げている。じつは当時、経済学者の松原隆一郎さんも「社会学科」の助教授でしたが、長らく景観を台無しにする醜い電線・電柱を問題視していた。私の(文化)騒音問題にも興味を持ってくれていましたが、のちに電線・電柱の撤去に関して、小池さんと意見が一致したことも聞き知りました(としても、小池氏に投票するかどうかはわからないけれど)。 

さて、本来のテーマにやっとたどり着きました。舛添さんが公費を私的なことに流用しているという疑惑が出たとき(「湯河原通い」あたりから)、当時の彼の応対ぶりを見れば一目瞭然ですが、そこにはまったく何の問題もない、と確信していたようです。

机上の空論を徹底的に嫌ったリアリスト

「第三者」である彼が選んだ2人の弁護士による調査報告のあたりまでは、舛添さんは何を追及されても「お前ら、法律や行政を知らないな」と言いたげな、人を食った素振りでした。彼は法律や政治の第一級の専門家であり、大臣まで務めた経験豊かな政治家でもあって、まさに「俺は裏の裏まで政治の世界を知っている、素人やザコは黙れ」という、高をくくったような態度でしたねえ。

そういえば舛添さんは政治家になる前、ある総合雑誌に「外務省の官僚が東大教授になることはできても、東大の政治学の教授は外務省では勤まらない」というようなことを書いていた記憶もある。社会科学(とくに政治学)における机上の空論を徹底的に嫌い、過酷な現実世界において獲得された知識のみを信じるリアリスト(マキャベリスト?)の典型であったと思います。

私は、こういう現実感覚は嫌いではなく、むしろ「そうであるな」と評価するところです。舛添さんの神妙な表情のすぐ裏から、「俺のような何でも知っている専門家を、薄っぺらな正義感とか甘ったるい庶民感覚を持ち出して批判するとは、ちゃんちゃらおかしい」という思いが、テレビ画面を通じてビンビン伝わってきました。

たぶん舛添さんは、あの時点でいずれ事態は収束すると考えていたのでしょう。政治の現場はそんな「せこい」批判が通用するところではない、と信じていたのでしょう。公金の私的流用に関する弁護士の「不適切でも、違法ではない」という要約を聞いて、舛添さんは「みなさん、おわかりか? 本当の法律専門家の判断とはこういうものなのだ。これほどまでに俺は誠実に対処したのだよ」という思いさえあったような気がします。

次ページ舛添氏の「常識」がガラガラと崩れた瞬間
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