超人気棋士が抱く「将棋ソフト」への拒否感 人工知能は将棋指しの「敵」なのか?

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「棋士とソフト」について強い関心を抱いた私は、観戦記で何度か取り上げてみた。ある対局で指された新手がソフトが発見した手であることを明らかにした記事は、ずいぶんと話題を集め、賞もいただいた。手ごたえを感じた私は、将棋ソフトに特化した話を棋士にじっくりと聞いてみたいと考えていた。そんな時にこの執筆の依頼をいただき、渡りに船とばかりに飛びついた。

ソフトにいい感情を抱いていない棋士もいる。一部のファンもしかり。「大川はソフトについて書きすぎ」などというネットの反応を見たこともある。

棋士の強烈な言葉の数々に…

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人によっては地雷になりかねない話題だったが、依頼を引き受けてくれた棋士は思いのほか前のめりになって話をしてくれた。普段の取材では聞けないようなことや、聞きにくいことも躊躇せずにどんどん尋ねてみた。ずいぶんぶしつけな質問もしたと思うが、本書に登場する渡辺明竜王が「いま将棋関係で刺激的な本を作りたいのなら、ソフトは外せないでしょう」と言ってくれたのはとても励みになった。

羽生善治三冠が、コンピュータに特化したロングインタビューを受けるのは、私が知る限り本書が初めてだ。勝ち上がればソフトと戦うことになる第1期叡王戦にエントリーしなかった理由を聞いて「なるほど」と納得できた。羽生が将棋ソフトをどのように使っているのか、また多くの棋士が用いている有力な使用法を拒む話などは実に興味深かった。

渡辺は「ソフトの影響で、今後はでたらめな戦法が増えていく」と未来の盤上について預言者のように語った。

第1期電王戦でソフトに連敗を喫した山崎隆之八段は、ソフトが使える棋士とそうでない棋士が生まれることによって、「いまの将棋界は勝負の平等性が薄れている」と残念そうに漏らした。

ソフト研究にどっぷり漬かっている気鋭の千田翔太五段は「純粋に将棋が強くなりたいのであれば、現在のプロ制度と関係ないところで自由にソフトを使って勉強できる環境の方がいい」とまで語った。

これまで「ソフトを使っていない」と公言していた行方尚史八段は、「短期間使っていた」と明かし、「ある対局がきっかけで、使うのを止めた」と告白した。

人工知能という存在によって現在、危機的状況に立たされている棋士たちの姿は、将来の我々の姿と見ることも可能だろう。そんな彼らの証言から、何らかのヒントを得られるはずだと確信している。

毎回取材を終えると、棋士の強烈な言葉の数々に当てられた私は異常な興奮状態にあった。そして翌日に録音を聞き返して再びテンションが上がるという、何とも幸福な体験をすることができた。

読者にもぜひ、その感覚を共有していただきたい。

講談社「本」8月号)

大川 慎太郎 観戦記者

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おおかわ しんたろう / Shintaro Okawa

1976年静岡県生まれ。日本大学法学部新聞学科卒業後、出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『将棋・名局の記録』(マイナビ出版)、共著に『一点突破 岩手高校将棋部の勝負哲学』(ポプラ社)がある

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