「ベンチャーブーム」に漂う熱気と一抹の不安 過去に例のない資金調達だが選別も始まる
テクノロジー関連ビジネスを手がけるあるベンチャー企業の社長は「今年後半は何が起こるかわからないので多めに資金調達した。資金調達環境は悪くない」と打ち明ける。資金の需給バランスは明らかに供給超過で、ベンチャー企業投資の金額が跳ね上がっている。
JVRによると、1社あたりの資金調達額は2010~2011年に1800万円程度だったのが、2015年には1億円超へ拡大。フリマアプリのメルカリやバイオ素材開発のスパイバーなど、ベンチャー企業で100億円前後の大型調達に成功するケースが登場している。
1社あたりの資金調達額の上昇はベンチャー企業のバリュエーション(企業価値)が高騰していることを示している。VC最大手・ジャフコの三好啓介取締役は「足元、ベンチャー企業に投資をしたい資金は豊富にあるが、資金の出し手がたくさんいるので競合が激しく、割高なケースもある」と話している。
今回はいい意味で新しい潮流が生まれ始めている
わが国においては1980年代以降、ほぼ10年に一度のペースでベンチャーブームが起きていた。だが、今回は過去のブームとは大きく異なり、良い意味での新しい潮流が生まれ始めている。
メルカリの山田進太郎社長らのように、一度起業に成功し、もう一度別の会社を立ち上げる「シリアルアントレプレナー」や、自身がベンチャービジネスで成功し、今度は投資家としてベンチャー企業の育成を図る「エンジェル投資家」が日本でも生まれ始めている。
DeNA(2005年上場)やmixi(ミクシィ、2006年上場)、グリー(2008年上場)などのように、2000年代半ばに上場した企業のストックオプションで相応の資金を手にした若手企業家が、今度はエンジェル投資家として100万円前後の小口資金を仲間同士で投じ、次のベンチャー経営者を支援するケースが出ているようだ。
起業家像も、既存イメージを一新するような人材が流入している。エンジェル投資家の一人で、若手ベンチャー経営者のメンター役でもあるクラウドワークスの吉田浩一郎社長は「昔はちょっとはみ出た非エリート層が起業を選ぶイメージがあったが、いまは地頭の良い、普通に大企業に入るような人材が主体的に起業を選んでいる」と話す。
さらに、ここへきて加速しているのが、オープンイノベーションの波。その波に乗り遅れまいとする伝統的大企業の危機感や手詰まり感が、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)と呼ばれるベンチャー投資の背中を押している。2008年から100億~150億円規模のファンドを複数設立し、日米、イスラエルのテクノロジー企業へ投資しているNTTドコモ・ベンチャーズの秋元信行副社長(6月末現在)は「事業のアイデアを出し、リスクをすべて潰して、世に出す頃には、ビジネスのケシキが変わっているほど、特にC(消費者)向けサービスの栄枯盛衰は激しい。各企業ともそういうスピード感を感じているせいではないか」と話している。
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