「LINEは日本製」って言い出したのは誰か? そうあってほしいという願望が錯覚に化けた

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総じて日本の活字メディアで働く人間は私を含め、インターネット・リテラシーが高くない。ネットを「マスメディアの補完」と捉え、ネットが生み出す新しいコミュニケーションからは目を背けがちだ。情報を扱うプロは自分たちだけであり、アマチュアが生み出す情報に「大した価値はない」と考えている(または考えたがっている)からである。

製造業の人々もネットを過小評価した。その本質を理解できなかった日本の電機産業は、東芝やシャープの例を引くまでもなく、壊滅的な打撃を受けた。

「LINEは日本生まれ」という錯覚

人間は見たいものしか見ない。目の前で起きている事象も、自分の都合がいいように解釈する。その際たるものが「LINEは日本生まれ」という錯覚だ。自分が毎日使っているアプリを作ったのは誰なのか。その会社は誰が経営しているのか。本当のことを知ろうともせず「日本生まれ」と聞いて安心している。

付け加えるなら、我々が「LINEは日本生まれ」と思い込んでいる裏には緻密な計算がある。本書は「そこには『LINEが日本発のオリジナルアプリという"物語"』にとって、韓国という存在はできる限り消したほうが都合が良い、という経営判断があったからだ」と謎解きをしてみせる。

『韓流経営 LINE』(扶桑社新書)は7月2日発売(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

こうした戦略を描いてきたのが、韓国ネイバーの創業者であるイ・ヘジンであり、「LINEの父」と呼ばれるシン・ジュンホである。本書では、周到かつ、したたかに日本市場を攻略し、それを足がかりに世界市場でフェイスブックを追撃する彼らの姿もまた、生き生きと描かれている。

半導体、スマートフォンでサムスン電子に負け、勃興するネット産業でも「韓流経営LINE」の後塵を拝する日本。それでも多くのビジネスマンは「経済大国日本」の幻想に浸り、太平の眠りを貪っている。

いたずらな韓国脅威論には与しないが、LINEを使うたびに「なぜ日本がこのサービスを生み出せなかったのか」と考えるくらいの謙虚さは必要だ。その意味でNewsPicks取材班は良い仕事をした。

大西 康之 ジャーナリスト

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おおにし やすゆき / Yasuyuki Onishi

1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』などがある。

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