宇宙飛行士が「課長」ってどういうこと? スーパーサラリーマンでなければ、宇宙には飛べない

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その前に、宇宙という「現場」での宇宙飛行士の仕事の実態を押さえておこう。

原則8時間勤務。休日出勤、残業あり

現在の宇宙飛行士たちの仕事場は、地球上空約400kmを飛行する国際宇宙ステーション(ISS)だ。全体はサッカー場ほどの大きさがあるが、宇宙飛行士が暮らすのは中央に連なる10ほどの部屋。地上と同じように空気が満たされ、温度・湿度も一定に保たれている。

日本の宇宙飛行士のエース、若田光一氏は2013年末からのISSの滞在で船長を務める予定。ISSの船長は、宇宙飛行士たちの命を預かる決定権を持つ。知識や技量はもちろんのこと、「ワカタになら命を預けられる」と世界中の宇宙飛行士からの人望も厚い。       
(出典:JAXA/GCTC)

ここに日本、ロシア、米国、カナダ、ヨーロッパの15カ国から選ばれた約6名の多国籍編成の宇宙飛行士たちが生活を共にしながら仕事する。

ISSは90分で地球を一周するため、約45分ごとに日の出と日の入りが訪れる目まぐるしさだ。そこでISSでは協定世界時を採用し、地上と同じように24時間サイクルで生活している。

起床はだいたい朝6時。8時ごろに地上とのミーティングが終わったら仕事開始。夕方のミーティングまで約8時間半が仕事の時間だ。仕事の内容やスケジュールは国際調整で決められる。だいたい15分刻みでスケジュールされているが、中には「試料を冷凍庫に保存する」5分間の作業など、実に事細かに決められている。

それ以外にも、ゴミ処理や宇宙食の補充などの家事作業があるし、翌日の実験の予習やメールの返事など、細かな雑務が目白押し。夕食後に残業することもある。土日は基本的に休みだが、土曜日は掃除や教育用ビデオの撮影があったりするし、貨物船がドッキングすれば日曜返上で仕事に当たる。

しかしちゃんと体を休めないと、倒れて他の宇宙飛行士に迷惑をかけてしまう。キツイなと思ったら助けを求めたり、仕事の再調整を依頼する。このあたりの「自己管理」も大事なスキルだ。

現場チームの責任者は船長であるコマンダーだが、宇宙実験や船外活動など作業ごとにリーダーが入れ替わる。自分がリーダーシップをとることもあれば、他のメンバーがリーダーシップをとることもある。誰がリーダーになっても、作業の目的が達成されるようにフォローするフォロワーシップがチームワークのカギとなる。

また、宇宙飛行士が現場で扱う情報には限りがある。世界15カ国が建設したISSには生命維持装置や実験装置など膨大な機器がある。ロシア、日本、米国、ドイツの管制センターでは24時間365日、ISS内の空調や電気、通信などあらゆる環境をモニターし、宇宙飛行士の安全を見守っている。

管制チームなど地上チームとのスムーズな連携がミッション成功のカギを握る  
(出典:JAXA)

これらの管制センターを筆頭に、宇宙実験チーム、医学チーム、マネジメントである運用チーム、広報チームなど複数のチームと密に連携をとる。

星出飛行士は貨物船のドッキングなど重要な仕事の際には必ず、つくばの管制チームに宇宙から電話をかけて最終確認を行い、成功した後は労をねぎらって宇宙からお菓子を届けたという(過去には宇宙からおすしの出前をつくば管制室に届けたNASA飛行士もいる)。

こうした緻密な連携の積み重ねの上に、華々しい成功の数々がある。

宇宙から地球に戻る前日、星出飛行士は「この美しい惑星に生まれてよかった」とツイッターでつぶやいた。会見でその真意を問われると、「地球は美しく、ユニークな星。地球という惑星に生まれたからこそ、宇宙に出て地球を見ることができた。プロジェクトにかかわったすばらしい人たちと仕事ができたのも地球に生まれたから」と感謝の念を口にした。

美しい地球を宇宙から見ながら仕事する「課長」の極意は次回から。お楽しみに。

林 公代 宇宙ライター

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はやし きみよ / Kimiyo Hayashi

宇宙ライター。神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経て2000年からフリーに。20年以上にわたり宇宙飛行士や宇宙関係者へのインタビュー、NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げや宇宙関連施設、皆既日食などの取材を続ける。著書に「宇宙飛行士の育て方」(日本経済新聞出版社)、「宇宙就職案内」(筑摩書房)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡宇宙飛行士らと共著、毎日新聞社)、「宇宙の歩き方」(ランダムハウス講談社)など多数。http://gravity-zero.jimdo.com/

 

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