『007/スカイフォール』 ―英国ポンドと日本円の共通性と通貨政策―

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早速、上海にボンドは派遣され、格闘の末、パトリスは高層ビルから落下。パトリスの雇い主はまだ不明。持ち物からカジノのチップが発見される。カジノへ行くと大金を渡され、セヴリンと出会う。その後、彼女の雇い主のいる島(軍艦島にヒントを得た島:軍艦島そのものではない)に向かうのだが、島では雇い主:シルヴァが現れる。シルヴァは007と同様に以前Mの元で働いていたがMを激しく恨んでいた。

その後、シルヴァを捕らえ、イギリスのMI6本部に拘禁したが、脱走。警官に変装し公聴会出席中のMを襲う。ボンドはシルヴァの攻撃を何とか退け、車でMと逃避行に。車をアストン・マーチンDB5(クラシックな最初のボンドカー)のに乗り換えた後、Mと2人でボンドの実家の今は住む者のないスコットランドの家:スカイフォールに行き、最後の決戦に備えるが……。

今回のボンドはボンドガールよりも、Mと一緒にいる時間が長い。もしかしたら、本作品では、ずいぶん年上のMが実質的なボンドガールなのかもしれない。

007の映画シリーズもこれで23作目、1作目の『007/ドクターノオ』からなんと50周年というから立派である。(ちなみに『男はつらいよ』シリーズは29年間で48本+特別編)。最近の3作品では2年ごとの予定であったが、本作品のリリースまで4年空いた。映画会社のMGMがリーマンショックの影響で経営不振となったためである。

007シリーズは英国のPRとしても大きく貢献している。ショーン・コネリーとロジャー・ムーアもナイトの称号を授与されているほどである。

英国経済と日本経済の類似点

この007が忠誠を尽くす英国であるが、経済、特に”通貨”の側面から考えてみると、日本と似たところがある。欧州では欧州経済統合の大きな流れに沿って、統一通貨ユーロが導入された。しかし、英ポンドは米国との関係や金融市場ロンドンを抱えていることもあり、ユーロには入っていない。東アジアの経済統合が進む中で、FTAやTPPの対応の遅れとも相まって、日本も東アジアへの経済統合、そして、さらに、アジア共通通貨に入ることは、英国と同じく米国との関係もあり少々困難ではないかと筆者は考える。英ポンドと同様に日本円も独立した通貨となる可能性があるということである

最近、自由民主党が選挙の公約として物価目標の導入とか、日銀法の改正等、もろもろの通貨をはじめとした経済政策案を発表している。実際は、長年やってきて景気がよくならない金融緩和は経済の痛み止めであるものの、体(経済)の悪いところは良くならないし、体力がつかないどころか、病気を治さず衰弱させてきた。その自覚は、国民は皆持っているのではないか。ドイツのように経済政策として規制緩和を主力にして経済の強化をすべきであろう。

自民党は円安についても言及しているが、円安にするのにいちばん効くのは政府(財務省)の為替介入(実際は日銀はオペレーションのみ)である。だが、米国をはじめとした諸外国からの圧力が強い。実際は金融緩和をやって円安誘導しても、方法が違うだけで同様に圧力がかかる可能性が高い。つまり、通貨政策は外交や“政治”そのものの問題であり、またそもそも通貨は日銀の所管事項ではないでので、日銀に圧力をかけても無理があると感じられるのは筆者だけだろうか。

ちなみに007シリーズのプロデューサーは、長年、米国人のアルバート(父)とバーバラのブロッコリー父子が務めている。このブロッコリー家がリトアニアから野菜のブロッコリーを広めた。

(公開日12月1日)

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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