『レ・ミゼラブル』(Les Misérables) ―経済も人生も、あゝ無情―

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『レ・ミゼラブル』(Les Misérables)は、ヴィクトル・ユゴーが、今から150年前の1862年に書いた、ロマン主義フランス文学の古典的名作である。ここを読んでいる読者であったら、何らかの形で読んだことがあると思う。もちろん、名前のとおり、結構、無情というか、悲惨な物語。レ・ミゼラブルとは、言うまでもなく「悲惨な人々」の意味である。

名作文学であるために、当然のことながら、海外における映画化も6回目。日本でも多く映画化されており、前後編に分かれているものもあるが、同様に6本作られている。

今回の『レ・ミゼラブル』(2012年イギリス)はミュージカル版を「原作」として映画化している。このミュージカルも凄く、世界43カ国、21ヶ国語で上演され、 各国の劇場観客動員数記録を塗り替え、27年間という驚異的ロングランと6千万人を超える動員数を達成している。

監督は『英国王のスピーチ』のトム・フーパー、主演は、『X-MEN』のヒュー・ジャックマン、『グラディエーター』(アカデミー賞受賞)のラッセル・クロウ、 『ブロークバック・マウンテン』のアン・ハサウェイ、『赤ずきん』のアマンダ・セイフライド、『英国王のスピーチ』のティム・バートンの妻でもあるヘレナ・ボナム=カーターなどそうそうたる俳優が出演している。映画を見て思うのは、今後彼らの代表作はこの『レ・ミゼラブル』になると感じた。これの名優の演技が素晴らしく良いのである。しかも、アップの場面が多いだけに余計にその上手さが分かる。

物語は格差と貧困にあえぐ民衆が自由を求めて立ちあがろうとしていた19世紀のフランス。ジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、パンを盗んだ罪で19年間投獄され、仮釈放されたものの行く先々で冷遇された彼を、ある司教は暖かく迎え入れる。しかし、その夜、司教の大切にしていた銀の食器をバルジャンは盗む。翌朝、彼を捕らえた憲兵に対して司教は「食器は私が与えたもの」だと告げて彼を放免させたうえに、二本の銀の燭台をも彼に持たせる。それまで人間不信と憎悪の塊であったバルジャンは司教の慈悲に触れ、身も心も生まれ変わろうと決意する。特にこのエピソードは子供のころよく聞かされたのではないか。

その後、バルジャンはマドレーヌと名前を変え、工場主として成功を収め、市長の地位に上り詰めたが、警官のジャベール(ラッセル・クロウ)は彼を執拗に追いかけてきた。

そんな中、以前バルジャンの工場で働いていて、娘を養うため極貧生活を送るファンテーヌ(アン・ハサウェイ)と知り合い、バルジャンは彼女の幼い娘コゼット(ポスターになっている女の子)の未来を託される。しかし、バルジャンは法廷で自分の正体を明かし再び追われることになる。ジャベールの追跡をかわしてパリへ逃亡。コゼットに限りない愛を注ぎ、父親として美しい娘に育てあげる。だが、パリの下町で革命を目指す蜂起が勃発、革命の波に飲み込まれていく……。

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