「改良すべき踏切」が多い鉄道会社はどこ? 欧州より日本で「踏切事故」が多発するワケ

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スペインの鉄道。ヨーロッパの中でも踏切が少ない部類に入る(写真:Yayimages / PIXTA)

日本とヨーロッパを比べると、日本は列車事故が極めて少ないのに対して踏切事故の件数が多いことがわかる。ドイツやフランスなど、日本よりも鉄道総延長が長い国を含むヨーロッパの複数国の22社合計で427件なのに対し、日本は単独で246件発生しているのだ。

その理由は、踏切自体が多いことにある。日本国内のJR、大手私鉄、中小私鉄の踏切の合計数は、国交省の資料によると2014年3月末の時点で約3万3600箇所。日本の鉄道総延長は約2万7000㎞のため、おおむね1㎞あたり1.2箇所の踏切がある計算になる。

一方、欧州鉄道庁(ERA)の資料(2010年)によると、ヨーロッパ各国の踏切の数は大半の国で日本よりも圧倒的に少ない。たとえばドイツの場合は1㎞あたりの平均は0.52箇所。特に少ないスペインは1㎞あたり0.18箇所で、10kmに2箇所あるかないかといったレベルだ。スウェーデンは1㎞あたり1.03箇所と日本に近いが、同国の人口密度は1平方㎞あたり21.4人で、日本の1平方㎞あたり339人と比べて圧倒的に少ない。人口密集地に踏切が多い日本の鉄道の姿が浮かび上がる。

日本の踏切の大半が警報機や遮断機を備えているのに対し、ヨーロッパではこれらの設備を備えた踏切は全体の半数程度だ。2月の東洋経済オンラインの記事で指摘されているように、ヨーロッパの鉄道は在来線でも日本より列車のスピードが速いため、ひとたび衝突などが起これば大事故になる可能性が高い。このため、高速化などに合わせて主要路線では踏切の撤去が進んでいる。

警報機や遮断機のある踏切で事故が多い

日本の踏切は中小私鉄も含め、大半で警報機や遮断機が設置されている。だが、これらの設備によって安全性は高まっているものの、確実に事故を防げるわけではない。

踏切事故というと、ローカル線などにあるような遮断機のない踏切で発生しやすそうに思えるが、2014年度のデータでは、踏切事故の85.5%が警報機と遮断機のある「第1種踏切」で発生。

警報機や遮断機のない「第4種踏切」で起きた事故は27件で全体の10.9%に過ぎず、安全対策が施されているはずの踏切で事故が起きているのが実情だ。

鉄道自体の安全性が向上する中でネックとなっている踏切だが、近年は対策が加速している。2005年に東武線竹ノ塚駅付近の踏切で起きた4人が死傷する事故を機に、国交省は2007年「緊急に対策の検討が必要な踏切」1960箇所を抽出、対策の実施を促進してきた。

今年4月には、事故の恐れがあったり、渋滞の原因となったりしている全国58箇所の踏切について、国交省が「改良すべき踏切」に指定した。最多は京王電鉄の25箇所だが、同線は連続立体交差事業が進んでおり、近い将来解消される見込みだ。05年に事故のあった東武線竹ノ塚駅付近の踏切も、今月末には下り線の1線が高架化される。安全性の向上と「開かずの踏切」解消へ、今後の取り組み強化が期待される。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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