短期では弱含みだが、中長期は上昇へ 原油価格はどうなるのか
ただし、イランが核開発を諦めないかぎり、イスラエルによるイラン攻撃と報復措置としてホルムズ海峡封鎖による中東からの原油・LNG供給が途絶するという懸念は消え去らない。石油市場を覆う最大の不確実性である。
ホルムズ海峡を通過する原油量は1700万バレルと、世界の原油供給量の2割に達する。世界最大のLNG生産国であるカタールは、ホルムズ海峡を迂回してLNGを輸出できない。イスラエルはレッドラインをイランに通告するよう米国に求めた。13年央には再びイランをめぐる緊張が高まりそうだ。
加えて、11年にリビアから原油の供給を止めた民主化運動「アラブの春」の火種も、まだくすぶっている。スーダン、シリア、イエメン、ナイジェリアの国内情勢が、ひとたび不安定化すれば、一気に石油価格の上昇圧力となる。
また、原油の金融商品としての側面も考える必要がある。オバマ米大統領の再選とバーナンキFRB議長の続投で、米国のQE3(量的緩和第3弾、超金融緩和政策)は15年まで継続することが決まった。
景気浮揚のために金融市場に放出されたマネーは金や原油など流動性の高いコモディティ市場に流れ込み、相場を下支えしそうだ。米国のQE3は米ドルの価値を押し下げる効果がある。金や原油などのコモディティがドル建てで取引されるかぎり、ドル表示の商品価格は下がらないことになる。
その意味では金融商品としての原油は、過剰流動性の海に浮かぶ「ひょっこりひょうたん島」のようなものである。
現状は「刀の刃の上を歩くようなもの」
90年代は、アジア新興国の通貨危機などがあり、世界の石油需要は伸び悩んでいた。一方、非OPECからの供給は増えており、OPECは生産削減で協調できずカルテルとしての市場制御機能を失っていた。このため石油価格は低価格の狭い範囲での値動きに終始した。
10年以降、現在に至る市場は、90年代と同様、一見すると、ボラティリティ(変動性)が低い値動きとなっている。
しかし、これは事情が異なる。OPEC(サウジアラビアが主導権)は原油価格の上値を抑え、かつ、下値を支える機能を有しているのだ。湾岸産油国には、国家予算の歳出を石油収入で賄えるかぎり(歳入歳出分岐点の原油価格は80~100ドル)、石油市場を安定化させ世界経済の安定的成長に資するという、政策的配慮がある。
石油増産収入増の政策は、火種を抱える彼らにとって、一石二鳥のメリットがある。加えて、原油相場が大きく下値を探ることがないのはイランなどをめぐる不確実性のゆえである。刀の刃の上を歩くような微妙なバランスを市場は意識している。以上、世界経済は低迷期を脱し切れず、短期的には石油需要は一層の縮小が懸念されており、原油市況は弱含みに推移しそうだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら