結婚もM&Aも、「新婚生活」を侮る者はしくじる 「Day1・入籍日」はゴールではなく中間地点だ

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しかし、これら統合活動で生じる衝突は、これから幸せな結婚生活を送るための課題だととらえたほうがいい。この統合期間、いわば「新婚期間」こそ、今一度M&Aの目的に立ち戻り、どうして買収しようと考えたのか、どうして買収されてもいいと考えたのかを再確認すべきだ。

結婚しようと思った目的は何か? 両社に想いがあってM&Aを決意したはずであり、「新婚生活」で浮彫になる問題は双方で乗り越えるべき課題である。統合期間で、これから目指すべき姿を改めて徹底的に話し合うことが、後の「結婚生活」を実りあるものにする。

Day100までの期間には、親会社と子会社の間における「ガバナンス方針」を決めることも重要だろう。ガバナンス方針の内容は、役員人事から、子会社に付与する責任と権限、レポートラインの設計、評価制度など、多岐にわたる。

「夫婦のルール」はどう決めるのがカシコイ?

“ガバナンス”という言葉は曖昧で分かりにくいかもしれないが、大枠で「夫婦間のルール」ととらえれば分かりやすい。新婚生活中に夫婦で決めたルールは、その後の結婚生活にも影響するのと同様に、M&Aにおいても、統合フェーズで定めたガバナンス方針は継続する。

分かりやすい例でいえば、(夫婦のどちらが親会社かは別として)旦那の毎月のお小遣いはいくらか、何か大きいものを買うときは夫婦間で相談が必要か、互いの仕事にはどこまで干渉していいか、などなど。これらはすべて「夫婦間のルール」だが、同じことがM&Aにおけるガバナンスにもすべて当てはまるし、大事なことは初期段階で決めておくのが重要だ。

では、これらガバナンス方針は、どのように決めるべきなのか。諸説あれども、私はM&Aを通して両社がどのようなビジョンを描いているかによると考えている。やはりここでも、M&Aの目的の重要性が注目される。

どのような結婚生活を送り、どのような人生を送りたいかによって、夫婦間のルールは変わるはずだ。「XXさん家は旦那さんが生活費を管理しているから、うちもそうしよう」などという考え方は、本来あるべきではない。“うちはうち、よそはよそ”である。

「他社のガバナンス方針のベストプラクティスを教えてくれないか」と、クライアントに依頼されることがある。しかし、私の考えとしては、ガバナンス方針にベストプラクティスはない。ガバナンス方針は、そもそものM&Aの目的と、そこから派生する親会社と子会社の関係性で決まるべきであり、千差万別なのだ。

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