医療は過度に規制を緩めるべきではない 横倉義武 日本医師会長
--前回の衆院選で自民党が下野した要因をどう分析しますか。
振り返ると、平成の始まりに政治改革が語られ、「55年体制」の変化という形で政治のあり方を変えることだと考えられていた。ところが選挙制度改革にすり替えられ、1994年に小選挙区制になった。小選挙区制が自民党にもたらした影響は何かといえば、それは世襲。それで党内の新陳代謝が行われなくなり、小選挙区での選挙を3回やって、最後には世襲が約5割となり、政党としての活力が失われてしまった。前回の衆院選は、そうした自民党政治に国民が反省を求めたのではないか。
──この3年間で自民党は変わったと思いますか。
政策を中心とした候補者の擁立をしっかりやっていただきたいという思いが非常に強いが、まだ完全に改革はでき上がっていない。ただ総選挙を前にした段階で、自民党の掲げる「自由経済を尊重し、国を大事にする」という党是が、徐々に国民に理解されつつあるのかなとも思う。特に尖閣諸島や竹島の問題が出てきて、国のあり方についても国民の意識は変わってきている。
──次期衆院選の第一党候補である自民党に注文はありますか。
次期政権を取れるか、まだクエスチョンだが、小泉政権時代に、医療分野へ過度に自由経済メカニズムを導入したことに対し、医療界から反発の声が上がった。具体的には、医療機関の経営を株式会社に任せてはどうかとか、公的医療保険で保障される医療内容を制限するということが語られたことがあった。
規制は必要なところには行い、不要なところでは緩めるという判断が必要だが、医療については過度に規制を緩めるべきではない。人命を預かる仕事であり、われわれは医療倫理をいちばん大事に考えて仕事をやっていかねばならない。重要なのは国民医療だ。国民医療とは、経済格差による医療格差をもたらさないような医療体制であり、誰でもどこでも必要な医療を受けられるよう経済的な支援を行うことだ。
日本が61年から始めた国民皆保険制度は世界各国からうらやましがられている。この制度を維持していかなければならない。