タクシー業界が就活生に「無料券」を配るワケ 若者のタクシー離れとライドシェアに危機感

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初乗り分が無料に。タクシーに乗るきっかけになるか

大学生は収入が少なくタクシーに乗る機会もあまりないかもしれないが、20代の若年層があまりにも乗っていない現状に、タクシー業界では相当な危機感を抱いている。

そこで、タクシーに乗るきっかけ作りとして始めたのが、今回の「就職応援タクシー」のキャンペーンだ。「大学生ら若い人たちはタクシーに対する抵抗感がある。実際に乗ってもらって、良さを知ってもらえれば」と、藤原副会長は無料チケットに期待を寄せる。

実はこの取り組みは今年で2年目。1年目は、採用選考解禁日の8月1日から「タクシーの日」にあたる8月5日までの5日間、東京駅などのタクシー乗り場で無料チケットを配布した。今年は、より多くの人に配布できるように、リクルート側の協力を得て就職合同セミナー会場で配布。さらにチケットの使用有効期間も、昨年の2カ月間から6カ月間に拡大した。ちなみに費用はすべて同協会が負担するという。

「ライドシェア」導入に強い警戒感

タクシー業界として、もうひとつ懸念しているのが「ライドシェア」の存在だ。

ライドシェアとは、一般のドライバーが行う相乗りサービスのことで、スマホなどを介して相乗りの相手を探し出す。アメリカでは、UberやLyftといった配車サービスやライドシェアを仲介する運営会社が急拡大を続けている。Uberなどはすでに国内でサービスを展開している。目的地が同じ人との相乗りマッチングサービスを行うサイトもいくつか出てきている。

有料のライドシェア解禁については、2015年10月の国家戦略特別諮問会議で議題の俎上に上ったことで、クローズアップされた。規制緩和によりUberやLyftといったアメリカのサービスが本格的に普及するとの期待の声が上がる一方で、有料のライドシェアが「白タク(自家用車を使った無許可タクシー)の合法化につながる」と、反対意見も根強い。ただ、「ライドシェアはおしゃれな感じがして、スマホを使いこなす若者との相性もいいのでは…」と、同協会の太田祥平広報委員長はライドシェアへの警戒心を緩めない。

タクシー業界としては、サービス面や安全性、安心感といったことをアピールしていく方針だ。また利便性向上を狙い、初乗り距離を2kmから1kmに短縮し、初乗り料金を引き下げる方向で、一部のタクシー会社から認可申請が出ている。国土交通省も夏頃に実証実験を行う予定だ。

こうした一連の対抗策を打ち出す一方、若年層にタクシー乗車のメリットを伝え、新たな顧客としての取り込みを狙っていく。はたして、財布の紐がかたい若者にタクシーは認知されるのか。就活生向け無料券キャンペーンには、タクシー業界の将来がかかっている。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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