領土紛争に油を注ぐ日中韓の国家主義者 尖閣諸島をめぐる争いの背景にあるもの

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 李大統領は保守派で比較的日本寄りだ。そのため、大統領が竹島/独島の韓国領有権を要求したことを日本人は一種の裏切りだと見ている。しかし、まさしく日本寄りの保守派だと見なされているがゆえに、大統領は自分が国家主義者であるとの見方を強める必要があるのだ。大統領は日本の協力者であるという悪いイメージを持たれるわけにはいかない。大統領の政敵は日本人ではなく、韓国の左派なのだから。

中国と韓国で反日感情をあおるためにかつての戦争のことが持ち出されると、日本人はいらだちを感じ、防衛反応が起きる。だが、日本の国家主義も──特に中国の国力高揚に対する恐れと国家安全保障の米国への全面依存など──不安や不満によって力を得ている。

日本の保守派は、46年に米国が書いた戦後の平和憲法は、日本の主権に対する屈辱的な攻撃であると見ている。日本の国家主義者たちは、日本が大国として振る舞い、取るに足らない岩礁をめぐってでさえ、その領有権を守る用意を十分に整えるべきだと主張している。

経済的な利害が深く絡み合う中国、韓国、日本は、重大な衝突を回避する理由が大いにある。しかし、3国とも衝突を起こすことに最善を尽くしている。各国は壊滅的だった戦争の歴史を国内事情だけで操作し、一層の損害を引き起こしかねない感情に火をつけている。

3国の政治家、評論家、活動家、ジャーナリストは過去について果てしなく語り続けているが、これらの人々は政治的な目的のために記憶を操作している。真実に興味を持つ者は誰もいない。

(週刊東洋経済2012年10月6日号 上写真は撮影:尾形文繁)

© Project Syndicate

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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