北海道新幹線、貸付料はJR東日本が実質救済 北海道は1.1億円、東日本が22億円を支払う

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東北新幹線の並行在来線である青い森鉄道。経営分離後もJR貨物の貨物列車が通る(写真:hot stuff/PIXTA)

整備新幹線の開業でJR旅客会社から経営分離された第三セクター鉄道は、引き続きJR貨物の貨物列車が通過する場合、JR旅客会社時代と同額の線路使用料では経営が成り立たない。

なぜなら、JR旅客会社時代の線路使用料とは費用のうち変動費の部分を通過する列車の列車キロの比で按分したものであり、固定費は含まれていないからだ。

たとえば、質量のかさむ貨物列車の通過に備えて線路のメンテナンス体制を整えたとしても、人件費や設備費はJR旅客会社がすべてを負担していたのである。だが、経営基盤の弱い第三セクター鉄道ではそうはいかない。というよりも本来の意味での線路使用料は固定費を含むべきものだ。

いっぽうでJR貨物は線路使用料が上昇してしまえば途端に経営が行き詰まる。何しろ、荷主や貨物利用運送事業者から運賃を満額徴収したとしても利幅が薄い状況にもかかわらず、他の交通機関との競争上、貨物利用運送事業者に対しては運賃を最大で5割まで引いて販売しているほどだからだ。そこで2000(平成12)年12月18日の政府・与党の申し合わせで調整措置が講じられることとなり、貸付料から調整金という名目でJR貨物への補助が実施されることとなった。

整備新幹線の営業を担当するJR旅客会社にしてみれば、政府・与党は他人の金だからこんなことを決められると憤慨するのも無理はない。JR北海道にとってはなおさらで、せっかく開業した新幹線の収支状況をJR貨物によって悪化させられた挙げ句、受益の範囲で負担した貸付料の一部がJR貨物の手に渡っているからだ。

JR北海道と貨物の今後は・・・?

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JR北海道は48億円の損失について「収支均衡が図られる計画」であるとしている(撮影:尾形文繋)

ちなみに、JR北海道は「北海道新幹線の収支想定」で生じた48億円の損失について、「新幹線開業に伴う並行在来線分離受益や関連線区受益を加え、収支均衡が図られる計画」であるという。

確かに、江差線の経営を分離することによって管理費を含めた18億6400万円の損失は削減でき、北海道新幹線の収支は29億3600万円の損失にまで改善される。

しかし、関連線区で生じる受益に期待するといっても、「平成26年度 線区別の収支状況」によれば北海道新幹線に接続する函館線函館~長万部間、室蘭線長万部~東室蘭~苫小牧間では管理費を含めて合わせて69億3400万円の損失が生じているのだ。残る29億3600万円分の損失を仮にこの区間だけで埋め合わせるには、98億7000万円もの利益を出さなければならない。しかも、この区間には貨物列車が通っており、JR貨物は線路使用料として変動費部分しか支払ってくれないのだ。

北海道新幹線の開業ブームに水を差すようで恐縮ながら、いま挙げた状況からいつまでも目を背けている限り、JR北海道、そして北海道の将来は暗い。いや、北海道新幹線の開業ブームにわいているいまだからこそ、JR北海道の今後、それからJR貨物の存在意義について考えるべきであろう。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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