人工知能の発展は格差拡大に繋がりかねない AlphaGoと最強棋士の対局が暗示する未来

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人工知能の発展は最終的には社会の生産力を非常に高いものにし、世の中から経済的な問題をなくす可能性がある一方で、格差の著しい拡大をもたらす懸念もある。

これまでの工場生産や事務の機械化では、機械が人間の作業の一部を代替しても、すべてを任せてしまうわけにはいかず、機械を操作する労働者がどうしても必要だった。経済学の教科書で説明される、企業の生産活動をモデル化した生産関数は、労働者がゼロでは生産量もゼロになってしまうというものだ。

しかし、人工知能が発達すれば機械が機械を管理するようになり、少なくとも普通の企業活動では機械を操作する労働者を不要にしてしまうだろう。もちろん、より進んだ技術を開発するためには、高度な研究能力を持った人材が不可欠だ。しかし残念ながら、それは誰でも努力すればできるという仕事ではない。ごく少数の恵まれた才能を持った人を除けば、ほとんどの人にはできない仕事ではないだろうか。

資産と所得の偏在が大きくなる危険性

こうした状況でも、生産設備を所有している人達は、資産からの配当という形で経済全体の生産性向上の利益を享受できるはずだ。『21世紀の資本』でトマ・ピケティ氏は、資産家が高い所得を得てますます資産を蓄積するという形で、資産と所得の偏在が大きくなる危険性を強調している。

一方、これまで従事していた仕事を機械にとって代わられた人達は、低賃金の仕事しか見つけられないかも知れない。人工知能を使って費用を引き下げることの利益が大きいのは、賃金が高くて一人の労働者の削減で節約できる金額が大きい仕事である。逆に、機械化しても節約できる人件費が低い仕事、つまり低賃金の仕事が最後まで機械化されずに残る可能性が高い。

人工知能の本格的な利用はまだ始まっていない。だが、安定した仕事と賃金が得られる中間層が縮小していることが、アメリカの大統領選挙に大きな影響を与えているといわれている。

大多数の人達の経済力が低下していることを示唆するデータも見ることができる。日本の経済データは長期間の動きを見ることができないので、アメリカのデータになるが、経済全体の所得中の賃金の割合を表す「労働分配率」は1970年頃までは上昇していたが、1980年頃以降は下落傾向だ。

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