日銀はマイナス金利で「敗戦」を糊塗している 実態は日本の本質的課題からそれた資産課税
金融政策とは何か、に立ち返ってみると、足元の金利を下げることで、「おカネをためないで使ってください。そうすると総需要が増えるので景気がよくなります」というものだ。しかしそれで現在の消費が増えるということは、将来、支出するはずだったものを先食いするということだ。
ひとりひとりの生涯にわたっての消費量は決まっていると考えられる。富裕層でもない普通の個人は家を3軒も4軒も買わないし、毎年自動車を買い替えるわけではない。
足元での消費が思わしくない理由は、政府が過去の長い金融緩和や税制優遇、エコポイントなどで自動車や住宅、家電の需要を先食いしてきたことも大きいのではないか。
本来、金融政策には短期的な景気循環を均す効果しかない。ところが、日本はもう十数年にわたって緩和的な政策を続けているし、米国もリーマンショックの後に7年も続けた。時間がたつほど効果は減衰しているのに、効果が出ないのは緩和が足りないからだと強弁して、無理な政策を続けている。
貯蓄増加の根本原因は「将来への不安」
そもそも、先進国で貯蓄が累増しているのは、人々が高齢化に不安を感じ、長生きリスクに備えようとしているからだ。そうして貯蓄が積み上がっていることの裏腹として、成長率がどんどん下がって、自然利子率(均衡実質金利ともよばれ、景気に中立的で潜在成長率に近似するとされる)が下がっているとしたら、それは金融政策で解決できる問題ではない。
貯蓄が過剰だといっても、老後のための貯蓄なのだから、いま前倒して使うことはできない。そこに負荷をいくらかけても、消費には向かわない。さらにマイナス金利のような形でそこに課税するとなれば、財産税であるし、相続税の強化ともいえる。そうなると、不足している貯蓄にさらに課税される低所得者はいわゆる"下流老人"に転落する、あるいは下流老人予備軍が増えていくことになる。また、所得に余裕のある人でも、課税されるなら将来の貯蓄が目減りしていくので、もっと消費を我慢して貯蓄しようという行動になってしまう。
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