日銀はマイナス金利で「敗戦」を糊塗している 実態は日本の本質的課題からそれた資産課税

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日銀がマイナス金利政策の導入を決めても金融市場は安定しなかった。2月12日には大幅な株安円高に(撮影:尾形文繁)

失敗を認めない日本銀行がとりうる政策

そうした意味で、今後の日銀の金融政策にはいくつかのシナリオが出てきたと考えている。

ひとつは為替が円高に振れるたびに、マイナス金利を少しずつ深くしていくというものだ。もうひとつは、失敗を認めることができないので、糊塗するためにもっと大胆な資産購入策に踏み込むことだ。たとえば、ETFを桁違いのスケールで買うとか、銀行の貸出債権を買いとるとか、不動産に投資していくといったことだ。本来は民間企業が担うリアルな経済の現場に踏み込んでいく、つまり、バーナンキ前FRB議長が昔、主張した"日銀がケチャップを買う"ということだ。

マイナス金利の導入に対しては、メディアの論調が厳しくなっているので、ますます、あとへ引けなくなっていると思う。太平洋戦争下、ミッドウェーの海戦で航空母艦が全部沈められているのに、勝っているといい続けていたのと同じような状態だ。メディアには失敗しているとは書かせたくないという政権だから、これから世界の金融市場が荒れて株価が下がっていけば、もっとそうした傾向は強まるのではないか。

引くに引けずに、とことん国民を巻き込んで国家の信用を毀損させていくという最終局面に至るのか。過去にも、その前にはややバブル的な状態になるので、もうそういう時間帯に入りつつあるのかもしれない。この先、日銀の政策をきっかけにして資産価格が急騰していくような場面があれば、長期的にみればそれは本当に危険なシグナルだと思う。

森田 長太郎 オールニッポン・アセットマネジメント執行役員/チーフストラテジスト、ウォールズ&ブリッジ代表

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もりた ちょうたろう / Chotaro Morita

慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券、SMBC日興証券などで30年以上にわたりマクロ経済、金融・財政政策、債券需給などを分析し、2023年10月から現職。グローバル経済、財政政策、金融政策の分析などマクロ的アプローチを行うことに特色がある。機関投資家から高い評価を得ている。著書に『日本のソブリンリスク 国債デフォルトリスクと投資戦略』(東洋経済新報社・共著、2011年)、『国債リスク 金利が上昇するとき』(東洋経済新報社、2014年)。

 

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