「ペテン師」のトランプが旋風を起こせるワケ

19世紀の思想家トクヴィルの懸念が現実に

扇動的政治家、すなわちポピュリストのメッセージは、民主主義の世界ではよく似ている。彼らは世の中のすべての病と悩みは、既存の政治エリートたちのせいだ、と主張するのだ。

既存政治家はこうしたポピュリズムを食い止める確固たる方法を見つけていない。彼ら政治エリートたちはポピュリズム自体を民主主義の脅威と見なすが、その見方に対する民衆の不信が、偉大なリーダーを待ち望む傾向へとつながっている。相互不信が独裁政治の温床になりつつあるのだ。

トランプ旋風には別の要因もある。SNSなど新メディアの出現である。既存の新聞やテレビといった権威あるフィルターを通さず、民衆がどんな見解でも直接見聞できるようになった結果、権力に飢えたペテン師が大衆から選ばれる傾向が強まっている。

政治はショーではない

扇動された民衆は億万長者に怒りを向けるより、むしろ大学教授や金融マン、ジャーナリストといった既存のエリートに怒りを向けている。莫大な富さえあれば、反エリート主義をあおることが可能となっている。この傾向は米国でより顕著だ。ポピュリストはもはや既存のエリート層が制止できるものではない。

今失われつつあるのは、トクヴィルが説いた「民主主義の制限」であろう。ポピュリストの特徴は、有権者に選出されたら、どんな政治的、文化的な反対意見も押し潰せるとの考え方にある。すでにロシアやトルコ、ハンガリー、ポーランドなどで、そうした傾向が見えつつある。イスラエルでさえそうだ。同国は作家や芸術家らに、国家への忠誠を誓わせている。

今後、既存のエリートが権威を取り戻すかどうかはわからない。ただ言えるのは、経験ある政治家が率いる党がなければ、政治は単なるショーに化しかねない、ということだ。民主主義を安っぽい人気コンテストにしてはならない。トクヴィルが向き合った課題は、今なお色あせていないのだ。
 

週刊東洋経済3月5日号

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