夜の多摩地区で働く「熟女キャバ嬢」の心理 見え隠れするのは「若さ」に対する恨めしさ

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彼女たちの生活範囲内、つまりは多摩地区の地味な駅周辺に、華やかなシーンがあまりに少ないこと、そしてその圧倒的なつまらなさとカサカサした日常に、キャバクラで働くことが少なからず潤いを注いでいることには彼女たちも自覚的だ。余分な金銭が手元に残れば、彼女たちの部屋は少し華やかさを取り戻す。また、店内のゴテゴテとしたソファでおこる色恋沙汰が街一番のスキャンダルとなる日もあるだろう。刺激を求めて夜に繰り出すのは若者もオバサンも同じだ。しかし、彼女たちにとってはその刺激的な場所にいられること自体がもう少し切実なのである。

女扱いされることを楽しむというとあまりに楽観的で、彼女たちのギリギリとした焦燥感に見合わない。「女を利用する」「女を売りにする」といった言葉はあまりに日常的に交わされるが、その「女」とは何であろう、と彼女たちを見ていて思う。「女」を売ったところで手元から「女」がなくなるわけではないゆえ、売って減るものではないらしい。

しかし、「M」で働く彼女たちの手元に残っている「女」はあまりに僅かである。消えてなくなりそうなものを少量ずつ扱う女たち。見た目は「枯れて」いても、肩を出してにこやかに微笑みかければ、そうされること自体にお金を払う男たちがいる。彼女たちはそれを確認し、まだもう少し大丈夫、と笑う。

見え隠れするのは、若さに対する恨めしさ

売っても売っても手元に残る「女」は、経年というある意味では平等なかたちで劣化し、減少していく。女子大生キャバクラ嬢にあるのが、浅はかさと僅かな背徳感であるとすれば、「M」の彼女たちに背徳感はほとんど感じられない。反面、あからさまに見え隠れするのは若さに対する恨めしさである。彼女たちは大人ぶらずに子供の荒々しさを取り戻そうとする。まるで女子中学生たちが放課後に妙に偽悪的になるように、悪口を言い合い、張り合い、群がってはしゃぐ。

現に、普段は「女捨ててるとは言わないけど、本当に女子力とかに興味がない」というR子さんは、売れっ子のA美さんが、自分の客と無断で連絡をとったという理由で激怒し、自分が属する仲良しグループで「A美をこらしめるために3週間無視し続けた」。

鈴木涼美(すずき すずみ)/作家。2009年に東京大学大学院学際情報学府修士課程を修了。2014年に5年間勤めた新聞社を退社。同年、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)を刊行した
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