最貧困層の女性は、なぜ性風俗で働くのか 福祉の網から漏れ落ちた人々の現実

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本書全体から透けて見えるのは、最後のセーフティーネットで稼ぐのも容易ではないという事実だ。わずか1000円のオプション料金(手取りは200円)で身体的精神的ダメージが小さくないだろう飲尿などの過激サービスを提供する女性も多い。

“激安風俗店の世界で行われていることは、どう考えても非合理である。しかし、非合理であるがゆえに、そこに救われる人がいる”

つまり、非合理なサービスを継続的に提供できるほど、差別や貧困、障害を抱えた女性が存在すると言っても過言ではないのだ。

著者が繰り返し指摘するように、これらは風俗の世界だけでは解決できない課題だろう。貧困女性の支援を風俗経営者がいくら唱えたところで、その声が届く範囲は限られる。

性産業が破壊されることで生まれる問題

一方、性産業は社会福祉に携わる人からは敵視されてきた過去があるが、性産業を破壊することは可視化されにくい貧困層のライフラインを絶つことになりかねない。性産業が公的なネットワークより機能している側面もあるのは事実だろう。

本書が提示するのは、二項対立でなく、近くて遠かった性産業と福祉の連携の姿だ。一例として、風俗店の待機部屋での弁護士や社会福祉士による無料での生活相談の動きを紹介する。

風俗の現場で何が起きているのか。背景に潜む物は何か。そして解決に向けてできることは何なのか。貧困女性の悲惨さが地続きの社会問題として認知されつつある中、本書は一歩踏み込んだ世界を示してくれる。

栗下 直也 HONZ

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くりした なおや

1980年生まれ、東京都出身。大学院修了後、半年間の無職生活を経て、産業専門紙に記者職で拾われる。現在は電機業界を担当。HONZでは新橋ガード下系サラリーマン担当を自認する。紹介する本は社会科学系、人文系、ルポ、お酒の本が中心。

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