グリーン革命 上・下 温暖化、フラット化、人口過密化する世界 トーマス・フリードマン 著/伏見威蕃 訳~アメリカ社会の復興に向け政治、政策のあり方を説く
著者は前作『フラット化する世界』がベストセラーになった、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストである。同じく世界的なベストセラーの『ベイルートからエルサレムへ』や『レクサスとオリーブの木』のなかでジャーナリストの目を通して常に時代の最前線の動向を分析してきた。そして本書では、環境問題のテーマに取り組み、知的で刺激的な内容になっている。
邦題は『グリーン革命』となっているが、原題は『温暖化・フラット化、過密化--なぜグリーン革命が必要なのか、グリーン革命がどうアメリカを再生させるのか』である。原題から推測されるように本書が焦点を当てているのは単なる環境問題やグリーン革命の技術論ではなく、アメリカ社会を復興させるためになぜグリーン革命が必要なのかを説いたアメリカの政治論、政策論でもある。
著者は、ブッシュ政権の過剰なまでの安全保障重視の政策(レッド)が世界的に重要な問題である環境(グリーン)に取って代わってしまい、その結果、アメリカは世界の指導者としての地位を失ってしまったと説明する。ブッシュ政権の京都議定書に対する否定的な政策は、その象徴でもあり、国際的な信認と指導力を失うなど、アメリカは大きな代償を払ったとする。アメリカは世界的な環境問題の解決で指導力を発揮することによりアメリカ自身が抱える問題を解決できると主張する。
「アメリカを世界で最もグリーンな国にするのは、無私無欲の慈善行為でも、単純素朴な道義ばかりを追求することでもない。いまやそれが国家安全保障と経済的利益の中心となっている」「グリーンとは、電力を生み出す単なる新方式ではない。国力を生み出す新方式なのである」と、グリーン革命を単なる技術問題に限定せず、むしろ政治・経済・安全保障という枠組みのなかで議論しているのが本書の最大のポイントである。そうした政策を、著者は“コード・グリーン”と呼んでいる。
現在の世界は温暖化に伴う環境変化、国際化に伴う中産階級の登場と消費の急激な増加、人口増加による人口過密という三つの深刻な事態に直面しているという。この数年以内にアメリカが指導力を発揮し、グリーン革命を成し遂げないと、世界の環境は修復不能な状況に陥ると問題の緊急性を指摘している。その問題指摘自体は特に目新しくないが、それがアメリカの政策との関係で論じられると大きな説得力を持ってくる。
上下二冊と大著であるが、豊富な事例も盛り込まれて、翻訳も読みやすい。グリーン革命に関する知識を整理するうえで役立つ一冊である。
Thomas L. Friedman
ニューヨーク・タイムズ紙コラムニスト。1953年生まれ。米ブランダイス大学卒業後、英オックスフォード大学で修士(現代中東研究)。UPI通信を経る。中東関連でピュリツァー賞を3度受賞。著書に『ベイルートからエルサレムへ』(全米図書賞)、『レクサスとオリーブの木』、『フラット化する世界』などがある。
日本経済新聞出版社 各1995円 上331ページ、下327ページ
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