豪腕・奥田会長 日本の賃金を下げる

給料はなぜ上がらない


 だが実際には、このベア要求なしの時代にも、自動車や電機などのほとんどの大企業は定期昇給(賃金力ーブ)を維持し、トヨタをはじめとした企業では「好業績はボーナスで報いる」との会社方針により、ボーナス要求は毎年満額回答を得ている。実際に大企業の正社員の収入が下がったかといえば、多くの場合そうではなかった。
 
 企業は既存の正社員の雇用と賃金水準は守りつつ、新たな正社員を雇う代わりに賃金の安い非正規社員の雇用を急拡大させた。賃金総額が増えない中で景気が拡大する。それが消費の回復を鈍らせ、デフレ脱却を遅らせることにもなった。トヨタショックをきっかけとする賃金抑制と非正規社員の増加。この二つが一体となって加速したのが02年からの動きなのだ。
 
非正規社員の低い賃金どうすればいいのか

パート労働者が加盟する「全国ユニオン」の鴨桃代会長には、忘れられない出来事がある。04年にあった連合の春闘集会だ。

このとき鴨氏はパートの代表として「全国ユニオンは時総1200円を要求したい。パートの多くは正社員と同じ仕事。皆さんも時総1200円は高いと思いますか?」と問いかけた。会場は一瞬、凍り付いたような雰囲気になった。正社員がベア要求を見送っているときに、いくら何でもそれは無理だろうというのが会場の無言の反応だった。
 
 連合は00年、初めてパートの時給10円増を掲げるようになった。パートの時給は900円台。その10円アップすらなかなか実現しない。
 
 鴨氏が集会で時給1200円と主張したのには理由がある。年間2000時間働いて240万円。最低の生活を維持するためには、これだけ欲しいというラインなのだ。パートで生計を維持している人はおよそ200万人いる(パート総数は822万人)。
 
 正社員労組のベア要求が復活してから2年目の07年春闘。連合は初めて一歩踏み出し、パートの時給1000円要求を打ち出した。しかし、全国ユニオンが掲げる1200円には程遠い。鴨氏はこう語る。「非正規労働者の格差を本気で改善するなら、正社員の待遇改善は我慢しなければいけない。それなのに連合はそれを言い出せない」。
 
 ただ、変化の兆しがあることも事実だ。全国の労働金庫職員で構成する全労金労組。2年前から労組が「正社員には定昇があるから、獲得したベアは非正規職員に回す」と賃金シェアの方針を打ち出した。
 
 変化はべプゼロショックの震源地、トヨタ労組からも起きている。昨秋、非正規社員である期間工を組合員化する方針を決定。トヨタ関連病院などで働くパートの組合員化にも積極的で、今や「非正規の組織化では自動車業界でいちばん熱心」と言われている。

労働者への分配はどうしたら公平にできるのか。トヨタショックに始まる賃金抑制と、非正規社員の増加で支えられた景気拡大。今や労働分配率は労使の関係だけでなく、正規社員と非正規社員という労労の関係さえも間うている。
(週刊東洋経済編集部)

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