北海道新幹線、こうすれば地元は活性化する 政治学者が語る新幹線開業の「正負の効果」
新幹線通勤者の帰宅を考えて、日々の夜の飲み会も駅前で済ませる傾向が出てくる。そうなると、中心市街地の飲食店の売り上げは落ち込むことになる。実際、その傾向は仙台で顕著である。金沢でもそうした傾向が出始めている。
新幹線開業の負の効果としては、地方の人口や資本が大都市に吸い取られる「ストロー現象」がよく知られている。たとえば、住民一人ひとりが高級ブランドなどの「買い回り品」を品揃えの豊富な都市部で買うようになる。それが積み重なって、地域の中心を担う老舗百貨店が傾くことで、ストロー現象が誰の目にも明らかになる。つまり地元の老舗百貨店も新幹線の開業で「負け組」になる可能性が高い。
新幹線開業に伴い在来線の特急が廃止された自治体や、域外企業の支店・営業所が撤退してしまった自治体も、雇用が失われたり、駅前の活気がなくなったりするので、新幹線開業に伴う「負け組」とみなすことができる。
新幹線開業による地方政治の変化
新幹線の開業前、沿線自治体は「地域の悲願」を実現させるべく、地域一丸となって陳情できる体制を整える。「建設促進期成同盟会」の結成が、その象徴である。
首長選における政党相乗りや地方議会の総与党化の正当化にも「新幹線開業」は利用されている。また、新幹線開業は地域対立を棚上げする免罪符でもある。「地域の悲願」の達成を強調することで、地域住民の中にある不満を抑え、地域内に根深く存在する亀裂(たとえば、市町村合併で生じた遺恨や地域内のインフラ格差)を覆い隠すことができる。
しかし、新幹線の開業が近づくにつれ、こうした政治的一枚岩は維持することが難しくなっていく。なぜなら、地域の中に前述のような負け組が生まれ、「こんなはずではなかった」「何とかしろ」という声が大きくなるからである。また、新幹線が開業することによって、「もう公共事業は十分」という層も現れてくる。開業が近づけば近づくほど「新幹線」という地域をまとめるマジック・ワードは使えなくなっていく。そして、棚上げされていた地域対立が姿を変えて再び顕在化するのである。
長野行新幹線が開業し冬季オリンピックが終わった2000年、長野県では作家の田中康夫氏が、当選確実と言われていた前副知事を破り知事に当選した。北陸新幹線金沢開業が迫った2010年の金沢市長選挙では、盤石の相乗り体制を敷いた現職候補が敗れるという波乱があった。こうした事例は、新幹線開業によって地域の一枚岩を維持することが難しくなることを示す具体的な証拠である。
広域を走る新幹線開業によって、県境にとらわれた一県完結型の経済政策・観光政策も終焉を迎える。ポスト新幹線時代の地域の浮沈は、県境にとらわれない俯瞰的な見方ができる地方政治家を選ぶことができるかどうかにかかってくる。言い換えると、ポスト新幹線時代の地方政治家、とりわけ首長には、それまで以上の構想力とリーダーシップが求められる。くまモンを活用した熊本県の観光政策をみれば、この指摘が妥当であることは納得できるであろう。
「お願いする時代」から「自ら企画し実施する時代」に開業後の沿線自治体だけではなく、企業も住民も意識転換を図らなければならない。北海道新幹線開業の評価も、その意識転換次第と言えるのではないだろうか。
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