【産業天気図・損害保険】市場環境悪化で「雨」降り止まず。業界再編も一気に加速
最終黒字を確保した損保でも、価格変動準備金の取り崩しで黒字化を達成しているにすぎない。なかでも東京海上ホールディングス(HD)<8766>は、経常利益は赤字に転落する見込みだが、価格変動準備金の取り崩しで黒字を維持する。各社とも09年3月期の業績は、たとえば日経平均であれば8860円程度と、08年12月末の水準を前提として予想している。金融市場の動揺はまだまだ継続しており、09年3月期の各社業績はさらに下振れするおそれが強い。また、10年3月期については、有価証券の評価損は一巡すると見られるものの、本業の保険事業は厳しい状況が続く見通しだ。
金融危機がそれほど決算に影響を及ぼしていない08年3月期から各グループの連結業績をみると、正味収入保険料はMSI3社合計の約2兆7000億円に対し、長らく損保業界に君臨してきた東京海上HDが約2兆2000億円、SJI2社合計が2兆0600億円。一方、経常利益はMSI3社連合の約650億円に対し、東京海上HD1790億円、SJI2社連合1110億円と、利益水準ではMSI3社連合が見劣りする。
もっともMSI3社連合の経常利益は、08年3月期にあいおい損保がサブプライム関連のクレジットデリバティブの評価損を計上しているため、300億円ほどの下押し要因がある。しかし、その影響を除外しても経常利益ではMSI3社連合と東京海上HDとの格差は、1.7倍弱も開きがある。
このように収益力に差がつくのは、あいおいを除く2社、三井住友海上GHDとニッセイ同和の損害率、中でも収益の柱である自動車保険の損害率が高いことに起因している。あいおいの児玉正之社長は、あいおいの損害調査サービスや保険引受などのノウハウをほか2社に移築できれば、収益力はめざましく改善するとするが、事業の根幹、プロセスにかかわる部分だけに移築が簡単に済むとは思えず、収益力改善の道のりは険しいと言わざるを得ない。
また、MSI連合もSJI連合も、今回の経営統合では、システム関連によるコスト削減を目玉のひとつとして挙げている。だが、過去の統合の例を見ても、統合に伴う初期システムコストは削減効果を上回ることが多く、下手をすると今回も「取らぬタヌキの皮算用」となる可能性もある。
市場環境の悪化が避けられぬ状況で、手をこまぬいていれば縮小均衡に陥るだけ。損保上位3グループはすべて持ち株会社となり、政策の機動性は増した。業界の中には「大きな1、2位が存在していれば、3位以下はよほど特徴がないかぎり、存在そのものが薄くなる」との声もある。その意味では3強1番外地となった国内損保市場で、その動向が注目されるのが富士火災海上保険<8763>だろう。富士火災は、米大手保険会社AIGの損保子会社AIU保険との提携を強化する方針だが、今後、どのように存在感を示していくのか。その立ちまわり次第で再編劇の行方が大きく変わる可能性も秘めている。
(筑紫 祐二)
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