学生が注目し始めた「エシカル就活」とは?

ここ数年、国内でもSDGsの認知が広がり、授業で扱う教育現場も増えた。そんな背景もあり、現在、年齢が若いほどサステイナビリティー(持続可能性)への感度が高いといわれる。その象徴の1つが、「エシカル消費」だろう。「エシカル」は英語で「倫理的、道徳上の」という意味。エシカル消費は、環境や人権、社会などに配慮した商品やサービスを選択する消費行動のことで、若い世代を中心に浸透しつつある。

そして今、一部の就活生の間で「エシカル就活」というサービスも注目を集め始めているのはご存じだろうか。社会課題に取り組みたい学生と、実際に社会課題に取り組む「エシカル企業」とをWeb上でマッチングする新たな採用プラットフォームだ。

Allesgood代表取締役CEOの勝見仁泰氏

このサービスを昨年11月からスタートさせたのは、Allesgood代表取締役CEOの勝見仁泰氏。現在22歳の大学4年生だ。社名は、ドイツ語の「Alles Gute」と英語の「All good」を掛け合わせた造語で、「三方よし」の意味を込めた。

勝見氏の実家は青果店。幼い頃から商いの仕組みを間近で見てきた影響で、自然と経済活動に興味を持った。「ビジネスは人々の幸福度を上げる、すばらしいソリューション」だと感じていたという。

だが、高校3年生の時にバックパッカーとして東南アジアを訪れ、ビジネスが気候変動や児童労働などの社会課題の元凶となっている負の側面に触れ、衝撃を受ける。産業構造への疑問が生まれ、ビジネスで社会課題を解決したいと思うようになった。

起業のきっかけは、就活で抱いた強烈な違和感

その後、大学時代に文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」を通じてドイツに留学し、途上国の特産品を活用した有機化粧品事業を始めたが、コロナ禍もあり頓挫。

大学時代、フィリピンにて伝統工芸の折り紙を活用した教育事業を立ち上げた経験も

帰国して、貧困、気候変動、地方創生といった社会課題の視点を持って就活を開始したが、今度は理想と現実とのズレに遭遇することになった。

「既存の求人サイトでは、業種や職種でしか仕事を探せません。僕は社会課題の解決に向けた自分なりのビジョンを持っていたのですが、そことマッチする進路がなかなか見つからなかった。もし社会課題の視点から仕事を探せたら、就活の幅も広がるだろうし、僕と同じような悩みを持った学生にも役立つのではと思いました」

実際、仲間に聞くと、意識の高い学生ほど同じような課題感を持っていた。そこで昨年8月、気候変動をテーマに企業と学生に向けたオンラインイベントを開催。すると、企業が4社、学生も150名ほど集まり、この場がきっかけでマッチングが成立したケースも生まれたという。勝見氏は、確かな手応えを感じた。

一方、自身の就活において、すばらしいと感じる企業との出合いも。パタゴニアやソフトバンクなどのインターンでは「地方創生の取り組みなど、とても勉強になった」(勝見氏)。しかし、「ここに入りたいというより、こうしたよい企業を増やしたい。まだ価値創造ができていない企業や、価値が学生に届いていない企業を支援したい」と思い、同年11月、新卒に特化した現在のサービス提供をスタートしたという。

NPOなどの非営利セクターではなく、広告掲載やデータベース使用料を収入源とする“ビジネス”にこだわったのは、ビジネスこそよりよい社会を実現できる武器だと考えたからだ。

「やはり実家が八百屋で、みんなの顔が見えてみんながハッピーになる循環を見てきた原体験が大きいです。一方、ビジネスは悪者扱いされてきました。実際、企業が事業活動を止めても気候変動や海洋汚染は元に戻ることができない状態になっています。でも、それだけ社会的インパクトがあるからこそ、仕組みや構造を変えたら、社会課題を解決していくうえでめちゃくちゃ強力なプレーヤーになると思うのです」

「上位大学の学生」の登録が半数を占める理由

「エシカル就活」の企業登録数はこの1年弱で23社にまで増えた。大企業から中小企業、スタートアップ企業まで幅広い。ユーグレナやボーダレス・ジャパンといったいわゆるソーシャルビジネス企業だけでなく、LIFULLや丸井グループ、メンバーズ、ポーラなど業種もさまざまだ。

しかし、登録企業は厳選しており、独自の審査基準を通過した企業のみを掲載。例えばビジネスモデルは循環型にシフトしているのか、いわゆるマテリアリティー(自社の重要課題)の分析をどこまでしているかなどもチェック。企業ビジョンやパーパス(存在意義)も重視しており、これは企業担当者との面談を基に判断していく。とくにESG(環境・社会・企業統治)情報の発信にまで手が回っていない企業については、ビジョンをしっかり見るという。

勝見氏も含まれる「Z世代」(1990年代後半~2000年代生まれ)の社員だけでなく、有識者も選定に関わる。現在、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏や、パタゴニア元日本支社長の辻井隆行氏のほか、複数の大学教授などが顧問として後援している。今後は、エシカル企業で働く人の本音を「見える化」するコンテンツも作って透明性をより高めたいという。ここまで力を入れるのは、見せかけの取り組みで実態は異なる、いわゆる「ウォッシュ」を見極めるためだ。

「ただ、僕たちは非エシカル企業を潰したいわけではない。目指すのは、『産業界のサステイナビリティートランスフォーメーション』の実現。だから、表面上の社会善をやっていると感じた会社に対しては、SDGsについて改めて考えてもらい、再度対話の機会を設けることもしています。ビジネスが社会に与える負の側面にも目を背けず、一緒に考えてほしいからです」

「エシカル就活」では、学生は「取り組んでいる社会課題」のカテゴリーから企業検索ができるほか、企業に対して「いいね」やコメントを送ることが可能。企業は、気になる学生にダイレクトメッセージを送信できる

一方、学生の登録者数は約1500名。早稲田、慶応、上智、ICUなどの上位大学の学生が50%を占める。「グローバル学部がある大学の学生が多い。英語で情報をキャッチアップできる学生は、サステイナビリティーの取り組みが進んでいる海外と日本の意識の差を感じるのでしょう」と、勝見氏は分析する。

また、登録者全体の70%以上が、留学、長期インターン、起業やNPOの立ち上げなどの経験者だ。つまり、「これから社会課題をやりたい」のではなく、すでに何らかの行動を起こしている登録者が多いという。

「社会課題を軸に自ら行動し、PDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを経験している学生は企業側にとっても魅力的に映ると思います。実際、22年卒では丸井さんの内定者の4%が当社を介した採用であるなど、大企業からスタートアップ企業までマッチングが実現しています」

学生なら誰でも登録が可能だという点も興味深い。高校3年生の登録者もいるという。ゆくゆくは、大卒のキャリア向けにもサービス提供を広げていく。今後のビジョンについて、勝見氏はこう語る。

「国内の新卒市場で10%のシェアを取るだけでなく、欧米を中心にグローバルかつボーダーレスに事業を展開していきたい。また、日本はSDGsの専門部署をつくるだけで満足してしまう企業も少なくありません。本来なら会社全体としてサステイナビリティーへの貢献を考える必要があると思うので、問題意識を持った学生をもっと企業に送り込んで現状を変えたいです。そして、エシカル就活を企業にとって必要不可欠なものにすることで、企業のサステイナビリティー活動の底上げを図っていきたいと考えています」

今や10代にとってサステイナビリティーは「当たり前」

将来の社会を担う若い世代のために、「社会課題の解決」と「働くこと」のシームレス化にも、もっと力を入れたいという。現在、社会課題に取り組む学生団体と連携したり、早稲田、慶応、上智、ICUの各大学と協業してキャリアセミナーやイベントを共催したりしているが、「中高生の若者たちもサポートしたい」と勝見氏は言う。

実際、SDGsが大学だけでなく、幼保小中高の学びにおいても重視される中で、勝見氏の元には高校を中心に講演依頼が舞い込んでおり、10代の若者と接点を持つ機会が増えている。

「僕は今22歳ですが、18歳の感度は驚くほど高い。彼らにとってサステイナビリティーは『当たり前』の感覚になってきていると感じます。社会課題の解決を自分のパーパスとする若者が増えているので、そんな彼らをサポートできる事業にしていきたいです。

僕が初めて社会課題に触れたのが高校3年生の時。それが結果として自分の進路を大きく変えました。学校は、いわゆる『いい学校』を勧めるだけでなく、子どもたちの描く未来に寄り添い、留学なども含めいろいろな情報を提示して将来をサポートする場であってほしいと思います。個人的にも、教育や『個人の可能性の最大化』にとても興味がありますので、もし参考になるのであれば、ぜひ多くの学生の皆さんに僕の体験や事業のお話ができればと考えています」

勝見仁泰(かつみ・きみひろ)
Allesgood代表取締役CEO。1998年生まれ。高校時代に訪れた東南アジアで先進国と途上国の経済格差に関心を持ち、社会課題解決を志す。「トビタテ!留学JAPAN」に採用され、ドイツへビジネス留学し、途上国の特産品を活用した有機化粧品D2C事業をドイツ人と共同創業。帰国後、パタゴニア日本支社、ソフトバンク、ビズリーチなどでインターンを経験。既存の就活に対する疑問から起業。社会課題に取り組むエシカル企業と優秀な学生をつなげる社会課題版LinkedIn「エシカル就活」を運営。高千穂大学在学中

(文:國貞文隆、写真はすべてAllesgood提供)