30代の妻を豹変させた韓国社会の壮絶な過酷さ 映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が描く実際
韓国で共感・反感の嵐を巻き起こした後、日本では翻訳小説としては異例の16万部超えのベストセラーを記録し、韓国小説のブームや、フェミニズム文学ブームの火付け役となった作品、『82年生まれ、キム・ジヨン』。その映画版が日本で封切られ、再び話題となっている。
原作は、ときどき他人が憑依するが本人には自覚がない、という精神病を患った30代のジヨンを診る男性精神科医のカルテの形で、彼女が生まれてから2歳児を育てる現在まで、人生の折々で受けてきた女性差別を描く。
映画では、夫のチョン・デヒョンが妻を心配し、女性の精神科医を訪ねる。そして、物語の中心は、専業主婦で子育てするジヨンの現在。絶望的な結末に至る原作とは、展開も変わっていく。特に前半、妻を心配する夫の存在感が原作より強く、夫婦の物語としても読める。そこで本稿では、ジヨンとデヒョン夫婦を追い詰めた韓国の社会状況を女性側だけでなく、男性側の視点からも探りたい。
映画を見た男性たちの感想は
映画を観た男性たちに感想を聞いてみたところ、共通して挙がったのが、育休取得にまつわるエピソードについてだ。
映画では、育休を取れば出世が見込めなくなるとわかっていながら、再就職の見込みが出てきたジヨンに対してデヒョンが「僕が育休を取ろうか」と申し出る場面がある。しかし、その話を知ったデヒョンの母がジヨンに電話で、「息子の将来の邪魔をする気なの!」と怒鳴りつけ、ジヨンの体調が悪化する。
IT関連会社で働く在日コリアン3世のTさん(41歳)は、「原作も読んだのですが、日本でも韓国でも、男性が育児休暇を取るのは難しい。女性も育児休暇を取った後は、仕事のチャンスが少なくなる。そういう現代社会をしっかり反映した映画だと感じました」と語る。
「僕はまだ独身なので、結婚したら自分が育児休暇を取るなど、妻を大切にする選択ができるかどうかわからない」と語るのは、28歳の会社員、Kさん。「ジヨンに感情移入をして観ていたので、旦那さんがもっとジヨンとコミュニケーションを取っていれば、もう少し事態が違っていたのではないかと感じました。どうしてコミュニケーションを取ってくれないんだろう。原作を読んだときより、映画のほうが観ていて苦しい気持ちになりました」。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら